朝起きて、紺色Tシャツから新しい紺色Tシャツに着替える。胸元には「食べチョク」の文字。本書はTシャツ起業家であり、「ビビッドガーデン」の代表取締役社長である秋元里奈の物語である。
会社の主力サービスである「食べチョク」は、いわばオンラインの直売所である。全国各地の生産者からこだわりの野菜やお肉、お魚などを直接購入することができる。
2017年8月のサービス開始当初、月間売上は2万円だった。そもそも一次産業の領域は不採算を理由に、多くのIT企業が進出しては撤退を繰り返してきた歴史がある。生産者側を説得するところから難航した。
それでも自分の足で全国の生産者の元を駆け回り、事業にかける自分の思いを伝えて、2020年12月現在では3300軒を超える生産者が登録するサービスに成長した。同年8月には投資家から総額8・4億円の資金調達にも成功し、産直ECサイトとしては「お客様認知度」「お客様利用率」などで堂々の№1を獲得した。
「農業は儲からないのよ」。そう母に言われて育った著者。いったいどのような軌跡を辿って、全国の生産者とお客さんをつなげる事業を成功させたのだろうか。
著者は農家の娘として生まれ、子どもの頃から「実家が農家」が自慢だった。しかし大学への進学時に農業ではなく金融工学を志望したのは、農家を継ぐ気がなかったからだ。早くに夫を亡くしてひとり親として育ててくれた母には、常日頃から「農家は継がなくていい」と言われていた。子どもには安定した未来をと願う親心である。
そんな著者にターニングポイントが訪れたのは、大学3年生のタイミング。学園祭の実行委員会のリーダーを任されたときだ。同期メンバーが活動に来なくなり、消去法で任されたリーダーの仕事だったが、もともとの負けず嫌いな性格からお客さんに喜んでもらおうと徹夜するほど作業にのめり込んだ。
自ら企画を立てて実行していくことはなんと面白いのだろうか。それまでは将来安泰な金融への道を進もうと考えていたが、学園祭での経験を通じて次第に自分のアイデアを形にする仕事に携わりたいと思うようになっていく。
就職先は金融業界ではなく、DeNAに決めた。私服で面接に臨めるのが自分の人格を尊重されているようで、“わたしらしく”働けるかもしれないと思ったからだ。安定志向の母からは反対された。しかし、他の企業なら任せてもらうまで5年、10年かかることでも、DeNAなら1年目からチャンスがある。
また創業者の南場智子さんが会社説明会で語った言葉も決め手となった。南場さんは、本当の意味でスキルを身につけるためには、若いうちに厳しい環境に身を置き、実際に経験することが大事で、それは5年後に大きな差となって表れるのだと語ってくれた。
そうして社員に「成功確率50%の仕事を委ねる」と言われているDeNAでの日々が始まった。志望とは異なる部署に配属となったが、まずは自分を認めてもらい、希望を通してもらうためにがむしゃらに働いた。積極的に他部署の人たちとも交流し、新しいアイデアを提案し続けて異動も叶い、4つの事業を経験することができた。
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