多くの日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が失敗に終わっている。その最大の原因は、経営者や担当者が、DXのあるべき姿を正確にイメージできていないことだ。経営者や担当者のほとんどが、DXを、チャットボットの採用やインターネット上の決裁システムの導入など、単なるオペレーションへのネット活用やツール導入だと考えている。しかし本来のDX推進とは、そのような一面的なデジタル活用を指すものではない。
アメリカでは、DXを「第四次産業革命そのもの」と捉えている。第四次産業革命とは、主にクラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT、AIが混ざりあうことによって生み出されるネットワーク効果や指数関数的な成長や変化を指す。これを企業にあてはめて考えると、DXとは、ツールの導入を行うといった局所的なIT導入のことではなく、デジタル技術を採用した根本的なビジネスモデルの変換を指すということになるだろう。
DXの本質は、根本的なビジネスモデルの変換、つまり、会社のコアをデジタル化することだ。そのため、DXは「会社にとってのコアの再定義」と「コアのデジタル化」から始めることとなる。
DXについてさらに理解を深めるために、「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」、そして「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の3つの違いについても説明したい。
デジタイゼーションは、「アナログからデジタルへの移行」のことだ。つまり、ツール導入による手作業の自動化やペーパーレス化などだ。「ハンコのデジタル化」などをイメージすればいいだろう。導入の対象は、主に社内の作業工程(会計、営業、カスタマーサポートなど)である。
デジタライゼーションは、「デジタル化されたデータを使用して、作業の進め方やビジネスモデルを変革すること」だ。ツール導入といった表面的な話ではなく、複合的で本質的なビジネスモデルとコアのデジタル化による変革を示す。
ここまで聞くと、「それこそがDXなのでは?」と思う方もいるかもしれない。しかし、デジタライゼーションとDXには決定的な違いがある。デジタイゼーションとデジタライゼーションが技術に関する変革を指すのに対し、DXは「主に人や組織に関する変革」を指すのだ。
ここでいう「人」とは、顧客・ユーザー・消費者・協力会社・社員などである。つまり企業のDXは、KPI(重要業績評価指標)や評価制度の見直し、抜本的な組織編成を伴うものであり、決して少人数のDXチームによる単一プロジェクトで実現できるものではない。
著者の経営するパロアルトインサイトでは、これまで100社を超える企業と、DXに欠かせないAI導入の話を進めてきた。この経験から、DX推進には大きく3つの壁が存在することがわかっている。すなわち、「FOMOの壁」「POCの壁」「イントレプレナーの壁」だ。それぞれの壁について紹介していく。
まず、「FOMOの壁」だ。「FOMOの壁」に直面している状況とは、何から始めればいいかわからず、実行に移せない状況のことをいう。FOMOは、「Fear Of Missing Out:置いていかれることを恐れる」の頭文字をとった言葉だ。
3,400冊以上の要約が楽しめる