著者は、データサイエンティストとして、人と人や、人と世界をデータでつなぐ仕事をしている。著者が目指すのは、「データを使った社会変革」だ。
データは、産業革命以来続いてきた価値=貨幣という大前提を覆し、多様な価値が行き交う社会を実現する可能性を秘めている。中国のアント・フィナンシャルなどが始めている社会信用スコアは、データの力で貨幣以外の価値を可視化している例だ。これは個人の日々の行動履歴データに基づき「信用スコア」を算出し、融資などの審査を行うものだ。プライバシーなど解決すべき多くの問題があることも確かだが、「貨幣以外の価値」が可視化され、社会を動かす新たな駆動力になっている。その点において、これからの世界の新たな可能性を示していると言えるだろう。
貨幣だけでなく、データによって信用や環境への貢献度などのさまざまな共有価値(Shared Values)が可視化され、それによって人々が響き合いながらともに構成する社会を、著者は「データ共鳴社会」と呼んでいる。データ共鳴社会では経済合理性という一元的な軸ではなく、何を大切に生きていくのか、どう社会に貢献していくのかなどの、多元的な豊かさの中で社会や経済をつくり上げていくことができる。
データ共鳴社会は、一人ひとりの多様なニーズを満たすことを可能にする。これまでは、最大多数の「平均の人たち」を想定してパッケージをつくるのが一般的だった。しかし、データを活用すれば、これまでよりも格段に低コストで一人ひとりのニーズや状況を細かく把握し、それに応じて商品やサービスを提供することができる。
これまでの社会では「最大多数の最大幸福」を実現することが合理的であったが、そこには必ずこぼれ落ちる人がいた。しかし、これからはデータの力により「最大“多様”の最大幸福」の追求が重要な考え方となる。これが、データ共鳴社会の目指す目標だ。
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