資本主義から脱却せよ

貨幣を人びとの手に取り戻す
未読
資本主義から脱却せよ
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貨幣を人びとの手に取り戻す
未読
資本主義から脱却せよ
出版社
出版日
2021年03月30日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

テクノロジーが発達し、現代はかつてないほど豊かな社会を迎えている。しかし、この社会全体に立ち込める暗雲のような不安は何だろうか。どの世代でも、将来に不安を感じている人が多い。それは何もこの未曾有のパンデミックのせいばかりではない。

著者の一人で、不安定ワーカー(現時点は失業中)という高橋真矢氏は、この社会を覆う不安感が生じる理由を次のように語る。「人生そのものが大きな負債(借り)を返すために成り立っているから」。私たちは住宅ローンを組み、あるいは家賃を払い、将来のために自分の「生きる時間」を投資して生活している。しかし、今やその先に待っているのは、「年金すら返ってこないかもしれない未来」なのである。私たちは貨幣を人びとの手に取り戻し、新しいストーリーを生きなければならない。

資本主義経済から脱却する方法として、本書で提唱されるのが「脱労働社会」だ。AIが仕事の大半を担うことで、人間は労働から解放され、国から給付されるベーシックインカムで生活できるようになる。もちろん脱労働社会は労働を禁じる社会ではない。人間は賃金のための労働から解放されることで、より人間らしい活動をしながら生きていけるはずだ。経済学の論客2人と不安定ワーカーの提言は、幸福の本質を突いている。

「社会はこれから一体どうなっていくのか」という疑問を一度でも持ったことがあれば、ぜひ本書を手に取ってほしい。社会への漠然とした不安や違和感が可視化され、日本経済の「今」がすっきり理解できるだろう。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

松尾匡(まつお ただす)
1964年、石川県生まれ。87年、金沢大学経済学部卒業。92年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了。経済学博士。
久留米大学経済学部教授を経て、2008年、立命館大学経済学部教授。著書に『自由のジレンマを解く』『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(以上、PHP新書)、『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)、『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』(共著、亜紀書房)、『新しい左翼入門』『左翼の逆襲』(以上、講談社現代新書)などがある。

井上智洋(いのうえ ともひろ)
駒澤大学経済学部准教授。経済学者。慶應義塾大学環境情報学部卒業。IT企業勤務を経て早稲田大学大学院経済学研究科に入学。同大学院にて博士(経済学)を取得。2017年から現職。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニア著書に『人工知能と経済の未来』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』『純粋機械化経済』(以上、日本経済新聞出版社)、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書)、『MMT』(講談社選書メチエ)などがある。

高橋真矢(たかはし まや)
兵庫県生まれ、現在、大阪府在住。高校中退、高卒認定(旧大検)取得、夜間学部大学卒業。現役不安定ワーカー。

本書の要点

  • 要点
    1
    資本主義の特徴は、市場主義の全面化と銀行中心の貨幣制度だ。社会主義は市場主義を廃しようとして失敗したが、私たちは国民中心の貨幣制度を打ち立てるべきである。
  • 要点
    2
    資本主義経済を極限まで加速させることで資本主義を脱しようとする「加速主義」が提唱されている。AIの普及とベーシックインカムの給付による脱労働社会はそのひとつの形だ。
  • 要点
    3
    市場の自由競争が過熱し、人よりもお金の価値が高くなりつつある。「商品」を売るため、労働に特化した住居と人が量産される。私たちが切り売りしているのは、「生きる時間」である。

要約

【必読ポイント!】 現代資本主義社会の問題点(井上智洋)

資本主義社会からの脱却

かつて、資本家が労働者を使役して利益を得ることは「搾取」と呼ばれ、不当な営みだとみなされていた。今では、労働者に十分な賃金を与えずに酷使する企業は、「ブラック企業」として糾弾される。だが、経営者や株主であること自体を責められることはない。

1990年代にソ連をはじめとする社会主義国が崩壊したことによって、資本主義には出口がないことが明らかになった。これを資本主義リアリズムという。これは、資本主義が唯一の存続可能な政治・経済的制度であり、その代替物を想像することすら不可能だという意識が広まった状態を指す。

資本主義に対抗する方法として、「加速主義」が提唱されている。加速主義は、資本主義を加速させることによりその極限で資本主義からの脱却を図る思想だ。資本主義の代替が存在しない以上、資本主義を追求することでしかそれを乗り越えることはできないという考えである。後述するAIの普及とベーシックインカム(BI)の給付による脱労働社会の到来は、加速主義のひとつの形である。

銀行中心の貨幣制度から国民中心の貨幣制度へ
Aslan Alphan/gettyimages

年輩者に比べて、若い世代はそこまで労働に価値を置かなくなってきている。今後、AIの普及によって、この傾向はますます加速するだろう。

しかし、私たちは脱労働社会をただ待ち焦がれていればいいわけではない。今の資本主義には明らかな不正がある。

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要約公開日 2021.07.07
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