人間主義的経営

未読
人間主義的経営
出版社
クロスメディア・パブリッシング

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出版日
2021年04月01日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は、未来の経営モデルとして注目されているイタリアのアパレル企業の創業者、ブルネロ・クチネリ氏の生い立ちと経営哲学を綴った本である。人間の尊厳と自然との調和を掲げた同社の企業経営は、本国のみならず世界中から注目されている。基本にあるのは、人間と自然のあるべき姿を求める姿勢だ。ブルネロ・クチネリ氏は、会社経営のスタート時点から、倫理的にも経済的にも人間の尊厳をただひたすらに追求している。

本書から読みとれるのは、「世界で一番美しい会社」と称されるようになった現在も、ブルネロ・クチネリ氏は具体的で地に足のついた経営を進めているということだ。伝統工芸を後世にのこすために職人学校を開校し、地域に貢献する施設をつくる計画もある。人やコミュニティを大切にする経営は、ともすれば利益至上主義に走りがちな現代の資本主義とは異なるものだ。経営手法を参考にしたいというグローバル企業が相次ぐのも納得である。

だが、同社の経営手法は、そう簡単には真似できないだろう。この会社の経営がうまくいっているのは、ブルネロ・クチネリ氏の経営哲学がしっかりしているからだ。ここまで透徹した経営哲学を持てるか、経営者が正しい姿勢を維持できるか――企業や経営者のあり方を見つめ直させるような問いを与えてくれる、企業人必読の一冊である。

ライター画像
毬谷実宏

著者

ブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)
1953年カステル・リゴーネ(ペルージャ市)の農家に生まれる。1978年カシミヤを染める小さな会社を設立し、当初から「経済的倫理的な側面における人間の尊厳」を守る労働という理想を掲げる。1982年以来、ソロメオ村は彼の夢を実現する場所となり、人文主義者として、また企業家として、数多くの成功を生みだす工房となる。3年後、クチネリは村の崩れかけた城を買取り、そこに彼の会社を置く。2000年会社の成長に伴う生産施設増設のためにソロメオ村近郊の工場を買取り、改修。情熱を持ってソロメオ村の修復に取り組み、文化と美と出会いに捧げる「学芸の広場」を建設する。2012年ミラノ証券取引所に上場。同年ソロメオ村に「職人工芸学校」創設。その「人間主義的資本主義」によりイタリア国内外から数々の勲章や権威ある賞を受けている。イタリア共和国労働騎士勲章、ペルージャ大学哲学・人間関係倫理学名誉学位、キール世界経済研究所経済賞、イタリア共和国大十字騎士勲章など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ブルネロ・クチネリは、イタリア・ウンブリアの小さな村、ソロメオを本拠地とする、「人間のための資本主義」をめざす会社だ。「人間主義的資本主義」とは、自然と人間と夢への志を尊重することから「正しい労働」という概念が生まれるという考え方だ。
  • 要点
    2
    ブルネロ・クチネリ氏が会社の拠点としてソロメオ村を選んだのは、妻の生まれ育った村が衰退していく様子にずっと心を痛めていたからだ。さまざまなインスピレーションを生み出す存在として、この村の中世の古城を購入し、事務所とした。
  • 要点
    3
    ブルネロ・クチネリ氏は、伝統技術の未来に対する不安を少しでも克服するために、職人学校を開いた。

要約

【必読ポイント!】「人間的資本主義」を実現するために

人間の経済的、倫理的尊厳を追求する
evgenyatamanenko/gettyimages

1953年にイタリアのウンブリア州に生まれた著者、ブルネロ・クチネリ氏(以下、ブルネロ・クチネリ)は、1978年、色鮮やかなカシミヤセーターを製造する小さな会社を立ち上げた。事業の目的は、倫理的にも経済的にも人間の尊厳を追求することだ。1982年、ウンブリアの小さな村、ソロメオに移り、そこを「人間のための資本主義」を実現する場所と定めた。

ブルネロ・クチネリの「人間のための資本主義」は、人間の尊厳と自然との調和を事業の目的に掲げる。彼のめざすものは経済と倫理の両面における人間の尊厳であり、その根本には、美を大切にすること、年輪を重ねた人やものと未来の世代をつなぐこと、愛のある豊かさ、本当に偉大なものは簡素であるという考え方がある。自然と人間と夢への志を尊重することから「正しい労働」という概念が生まれる――これが「人間主義的資本主義」だ。

人間と自然を尊重する

ブルネロ・クチネリは、農家で育ったことや個人的な経験から、人の尊厳を傷つけることは絶対に許さないという強い決意があった。人間の価値を尊重し、人間の価値を信じ、天の創造物である自然を傷めず、可能な限り自然への負荷を小さくする。そのように生産されたものこそ価値があると考えた。

思い描いたのは、消費者と生産者の双方にとって価値のある手作りの製品、美しい労働環境のほか、リラックスできる快適な休息時間、手作業の価値が隅々まで行き渡った会社の文化である。誇りとともに穏やかに生きていくためには、互いを尊敬し、事実を重んじる人間関係と、経済的に十分な所得が欠かせないと考えた。そのためには創造性を生む静かな職場環境が必要であり、倫理、尊厳、道徳と一体化した利益を生み出すことと、利益と贈与の均衡に実体を与えることが重要だ。

25歳のとき、ブルネロ・クチネリは現代的な色彩を特徴とする女性用のカシミヤセーターを作ろうと決めた。高度な手仕事と職人技に支えられたイタリアらしい服、最高級の市場セグメントに的を絞り、高価ではあるが価格以上の価値を持つ製品を作ることにした。

情熱を持って行動する

事業を始めたときのエネルギーは無知と本能だけだった。しかし、例えわずかな希望しかなくとも、行動することが大事だ。初めは手探りだったが、必死でやっていくうちに状況は好転し始めた。

何もわからないまま事業を始めたブルネロ・クチネリは、すぐに2人の素晴らしい人物に出会う。カシミヤの生成糸を売ってくれた善良な男性と、カシミヤの染物職人であるアレッシオだ。この2人は、情熱だけでお金のないブルネロ・クチネリを信頼してくれた。強い思いがあったからこそ、このような幸運に恵まれたのだろう。

誠実に対話する
PrathanChorruangsak/gettyimages

あるとき、ペルージャ郊外にあった小さな工場の移転を計画し、妻・フェデリカが生まれ育った村、ソロメオ村を候補先とした。この小さな村が衰退していく様子にずっと心を痛めていたからだ。そして、事務所として、この村にある中世の古城を購入してはどうかと考えた。歴史的な魅力に溢れるこの建物は、さまざまなインスピレーションを生み出す存在であり、自分の小さな会社の本社を置くのにぴったりだと感じられた。

とはいえ、この計画にはまったく可能性がないように思えた。

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要約公開日 2021.06.18
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