子育て中の共働き家庭において、特に日本型企業で働く男性社員が夫だった場合、妻のキャリアが犠牲になることが多い。旧来的な日本型企業では長時間労働が前提とされているため、家事育児を妻が担うことが期待されがちだからだ。
利益は享受しつつも必要なコストは出さない状態を「フリーライド」と呼ぶが、この言葉は最近、働き方にも使われるようになった。例えば保育園から子どもが発熱したと連絡があった場合、まだまだ日本は妻が対応するケースが多くある。その場合、夫側の企業は、まったく損失が発生しない。これは夫側の企業が、妻側の企業の人事制度や福利厚生にフリーライドしていることになる。
家事育児も同じだ。本来やるべき仕事をパートナーに負担させていれば、相手は思うようにキャリアを形成できないだろう。
健全な夫婦関係を築くためには、お互いのキャリアを長期目線で共有する必要がある。夫婦は「共同経営者」であり、夫と妻で「家族会社」を経営していると考えてみよう。そのうえで、長期の経営目標として、お互いのキャリア構築のタイミングを話し合っておく。そうして、「お互いのキャリアに対してどう思っているか」や「長期目線でどう役割を担っていくか」を調整する。
キャリアを考えるうえでは、物事の原理原則の基本はトレードオフであることも忘れてはいけない。思考力や体力を家事育児に奪われる中、仕事でも独身時代と同じだけの成果を出すのは難しいものだ。ならば、「両立できないのではなく、今はそういうタイミングなんだ」ととらえて、気持ちを楽にしてみよう。大事なのはキャリア形成のスピード維持ではなく、レースから降りないこと、あきらめないことである。
しなやかなキャリアを構築するためには、会社の評価基準とは異なる、自分なりの選択の基準を持つ必要がある。これを本書では、「キャリアのマイものさし」と呼ぶ。キャリアのマイものさしは、キャリア選択や形成をするにあたって譲れない価値観を指す。
キャリアのマイものさしに含まれる要素は、持っている資格やスキルである「できること」、人に言われなくてもやってしまう「やりたいこと」、いつか人生で成し遂げたい「やるべきこと」の3つだ。過去のアルバイトから現在の仕事に至るまでを思い浮かべると、思い当たるものがあるかもしれない。この3つを基準にすれば、仕事の条件や収入、福利厚生だけにとらわれることなく、自分らしいキャリアを選択しやすくなる。
仕事だけでなく家事育児も含めて自分が「頑張り過ぎている」と感じたら、何より先に「属人化防止力」を身につけるようにしたい。
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