会社方針や目標が示す「経営層が向かいたい方向」に対して、社員一人ひとりが自分の仕事として「何に取り組むか」がしっかり浸透している状態が理想である。そこで出番となるのがトヨタの日常管理板である。
トヨタの考える「日常管理」とは、「会社方針や目標を、日々、現場が取り組む課題にブレークダウンし、効率よく実行する」ためのしくみづくりのことだ。その進め方には3つのステップがある。
1つ目は「会社方針を決定・明示する」こと。経営層が現場の実態を理解しておくことがポイントとなる。
2つ目は「職場方針を決定・共有する」こと。各部課のマネージャーは、会社の方針・目標を達成するための方法を上司や部下と相談し、部課の役割にあった職場方針をつくる。これは、下の部署にいくほど具体的な内容となる。
最後のステップは「管理指標を設定し、2つのサイクルで改善を進める」ことだ。管理指標とは「計測対象を決めて数値を日々記録し、その数値がいくつになったときに、方針や目標が達成できたとみなすか」という客観的な基準のことである。たとえば「職場災害ゼロ」が目標ならば、「医務室の利用者数」や「医薬品の消費量」などが管理指標となる。この数値をゼロに近づけていく。そして、これを職場の改善と同時に進めていく。
つまり、管理指標には2つのサイクルがある。客観的な基準をもとに「方針・目標が達成できたか」を確認して管理する流れと、職場の全員で問題解決に取り組んでいく流れだ。
そうして現場の身近な問題までブレークダウンできたら、あとは実行あるのみ。改善によって問題が解決されると、管理指標がクリアされる。すると、職場方針も達成できる。これは、会社方針の達成にもつながる。そして自然な結果として、会社の利益が創出される。
トヨタの日常管理とは、ボトムアップで成果を連鎖させていく循環的なしくみなのだ。
日常管理の流れを1枚のボードにまとめたものが「日常管理板」である。横列には「安全」や「品質」といった「取り組みたいジャンル」を書き入れる。そして縦列には、①方針・目標、②管理指標(①を達成するための目標数値や達成状況、推移など)、③改善・問題解決のテーマと進捗の3つを記す。こうすることで、「経営層が目指しているもの」と「現場が取り組んでいること」が明確にひもづくようになる。
この日常管理板があると、全社的な目標を実現するために一人ひとりが何をするべきかが明確にわかるようになる。経営層と現場に一体感が生まれ、一人ひとりが自分の貢献度を管理指標の数値で実感しやすくなることもメリットだ。
トヨタでは次の6つのステップで日常管理板を運用している。
①会社方針に沿った職場方針・目標を立てる。
②①のためにクリアすべき管理指標(達成するための数値目標)を設定する。
③②をクリアするために、改善活動を行う。
④日々、管理指標の数値の推移をチェックする。
⑤③④の結果、効果のあった改善は「標準化」する。
⑥⑤が遵守できているか、日々チェックして、仕事の質を維持する。
まずマネージャーは、自分の部署や役職が担うべき役割を明らかにし、チームメンバーが何をすべきかを視える化する必要がある。これが日常管理板に明示されていると、マネージャーとメンバーのすれ違いを正すことができるようになる。
日常管理を運用することで職場にもたらされる様々なメリットについて、もう少し詳しく見てみよう。
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