この数年、世界的なマーケティングやブランドコミュニケーションの領域で、「ナラティブ」というワードの出現率が上がっている。「ナラティブ・マーケティング」「ストラテジック・ナラティブ」などのバズワードも見かけるようになった。
従来、これらに最も近い業界用語は、「ストーリーテリング」「ブランドストーリー」であった。ストーリーと呼ばれた領域が、ナラティブという概念にとって代わられようとしている。
ナラティブとは、ひと言で言えば「物語的な共創構造」である。ストーリーでは企業やブランドが主役であるのに対し、ナラティブでは生活者が物語の主人公となる。またナラティブは、ストーリーのように終わりはなく常に現在進行形であり、「これから起こること」を含む。そして企業が属する業界や競合環境を舞台とするストーリーとは違って、社会全体を舞台とする。
ビジネスにおけるナラティブは、消費者やユーザーはもちろん、従業員や取引先などのあらゆるステークホルダー(利害関係者)を、物語の「聴衆」としてではなく「当事者」として巻き込む考え方である。そうしたナラティブを生み出し、その構造の中でマーケティングや広告・PR活動を行うことで、業績や企業価値の向上を果たしている企業を、ナラティブカンパニーと呼ぶ。
なぜナラティブはこれからの時代に重要な概念なのか。それは私たちが直面している「ニューノーマル」の世界に起きている、「共体験」価値の高まり、「社会的距離」の見極め、「自分らしさ」が問われるという3つの変化にある。
ここでは「共体験」価値の高まりを例にあげよう。共体験とは、ある集団内、あるグループ内で同じ体験価値を共有することを指す。スポーツをスタジアムで観戦していると、どこからともなく観客がウェーブを起こし、それが次々に他の観客に伝播していって、スタジアム全体に一体感が生まれることがある。これも共体験の1つだ。
最近ではSNSの浸透により、ある特定の興味・関心で結びついた層がミルフィーユのように多層に重なる世界になっている。新型コロナウイルス感染症の影響で、同じ価値観、情報リテラシーを持つ人たちの共体験は深まっている。一方で、ウイルスへの恐怖、情報リテラシー格差による分断、細分化も加速している。
こうした共体験のマルチ化にうまく対応し、特定のターゲットに向けて共体験をデザインできるようになると、多くの人から共感、感動を得ることができる。しかしそのためには、企業やブランド自らも共体験者の一人になって共体験の輪に入らなければならない。こうした3つの変化を超えて生き残るのがナラティブカンパニーである。
ナラティブは5つのステップで実践される。パーパスとは、企業やブランドの「存在意義」である。たとえば、P&Gは「より多くの消費者の生活を少しずつ意味ある方法で日々向上させる」をパーパスとしている。
ナラティブの起点は「創業者や企業の強い思い」である。
3,400冊以上の要約が楽しめる