今日、私たちの多くは孤立して生きている。そのため、みなたいして人間を知らない。人間知を発展させるには、人と親密に関わらなければならないのに、家族の中でさえ、理解しあえずにいる。人間知がもっと広まれば、私たちはたがいに理解を深め、快適に共同生活を営めるようになるだろう。
人間の心の問題を解く鍵は、幼年時代のごく初期にある。心の様々な現象を、それ単体で完結したものとみなしてはならない。心の現象は、常に全体の一部だ。ある大人の振る舞いは、その人の子どものころの秘められた目標と一致する。人生の初期になじんだ「生のひな形」を抜け出すことは容易ではない。だから、幼年時代の記憶を訊けば、その人がどんな種類の人間か、正確なイメージを得ることができる。
多くの人には納得しがたいようだが、人間の生の指針は、生涯変わらない。人間は一生の間に多くの経験をするが、それによって振る舞いを変えるのではなく、自分の人生のひな形を強化する一定の教訓だけを、経験から引き出そうとする。人一人を変えるのは容易いことではない。
人間の心について知れば、義務と課題が生じる。ある人のひな形が人生にふさわしくないとわかったら、それを打ち砕き、共同生活とその幸福のためにふさわしい視点を勧めることだ。
心があると認められるのは、動くことのできる生物だけである。これは、運動と心の生活が関連することを示している。生物は、周囲の状況に合わせて、攻撃、防御、保全、保護のそれぞれの器官を働かせる。心とは、人間という生物の存続を担保するためのものだ。つまり、心とは孤立したものではなく、外からの刺激に反応し、環境と対立や連携をしながら、生物の生命を保障するものなのだ。
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