著者はもともと、大学の農学部でバイオの研究をしていたが、先輩が起業した塾を手伝ったことをきっかけに、「研究よりビジネスのほうが面白そうだな」と思うようになる。大学卒業後は「グローバルに活躍できるビジネスパーソンになりたい」とソニーに就職し、経理部に配属された。
しかし働いているうちに、大企業に対して抱いていた希望が徐々に失われていった。大企業も、最初は熱い志から生まれたスタートアップだ。しかし巨大化すると、意思決定のスピードが遅くなり、現場の声はかき消されていく。
ものづくりの現場や世界各国の最前線で奮闘している同期達の姿と、本社で議論している人たちの姿とのギャップに、「同じゴールを目指すはずの仲間なのにどうして」と不満を募らせるようになった。
そんなとき、「マネックス証券CEO室出向者募集」という社内公募が出た。元ゴールドマン・サックスの松本大氏とソニーの共同出資で、「オンライン証券」のマネックス証券を立ち上げることになったのだ。
公募に通り、マネックス証券に行ってみると、そこには想像の何十倍も刺激的な毎日が待ちうけていた。インターネットを使って金融の常識を変える最前線の躍動に立ち会うことができたのだ。同時に、松本氏の高い要求に必死でついていくなかで、経営の知識が圧倒的に足りないことを思い知らされた。
そこでマネックスの第1号留学に手を挙げ、ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学をするのだが、そこで感じたのは憤りに近い焦燥だ。日本人は優秀で真面目で、熱い思いを持っている。しかし社会には閉塞感が漂っている。将来に希望が持てず、ため息をつき、うつむいて、1歩を踏み出せない人が多すぎるのだ。「なんてもったいないのだろう」と悔しさを感じた。
対照的に、留学の際に訪れた上海は活気にあふれていた。市場に出ると、ランニングシャツに短パン姿のおっちゃんたちが、楽しそうにしゃべりながら笑っていた。その表情からは、「明日は今日よりももっと良くなる」と信じ切っているパワーが伝わってくる。「このパワーを日本にも取り戻したい」と切実に感じた。
ある日、著者のメールボックスに「Toshio Taki」という見慣れない日本人からのメールが届いていた。その日本人こそ、後のマネーフォワード共同創業者となる瀧俊雄氏だ。瀧氏は野村証券の研究所に在籍し、家計行動や年金、金融機関のビジネスモデルを研究しており、著者と同時期にスタンフォード大学へMBA留学していた。
金融とインターネットを掛け合わせた事業アイデアについて、瀧氏とディスカッションを重ねるうちに、「日本をもっと元気にしたい。そのためにやるべきことは?」という問いへの答えが浮かび上がった。社会のパワーの源は、その社会を構成する1人ひとりのパワーだ。そして個人のパワーの源のなかでも重要なのが
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