中田晴(はる)は、大手スーパーマーケット「ダイワ・フーズ」に勤めるバイヤーだ。売れそうな食品や食材を見つけ、商品として店頭に並べるのが仕事である。生産者との交渉や社内プレゼン、販売方法の立案などといったあらゆる場面で、コミュニケーション力が求められる。
そんな晴は、「発言がスルーされる」という悩みを抱えていた。素晴らしい食品を見つけ、会議でプレゼンをしても通らないのだ。今回も、ビール酵母の液肥と天然肥料で育てた甘いたまねぎを見つけてきたのに、プレゼンでは「とにかく、いいんです!」と幼稚な発言しかできなかった。部長からは「中田、俺にスルーされるような説明で、どうやって店頭スタッフやお客様を納得させるんだ。そこまでいかなければ、お前は存在していないに等しいんだぞ」と言われてしまった。
リモート会議を終え、ぐったり落ち込んでいる晴の前に、昔飼っていた愛犬のエドが突然現れた。エドは晴が大学生のときに亡くなったのだが、晴を「スルーされない人」にするための知恵を授けるべく、過去から戻ってきてくれたようだ。
まずエドは、晴の言葉に「私」という主語がないと指摘した。晴の会議での発言「ビール酵母で育てたたまねぎ、マジ、うまいっす。甘いつぅか、もっと奥行きがあるっていうか」には、主語がないため、どこか人ごとのように聞こえる。「私、実際に食べてみました。ビール酵母の液肥で育てたたまねぎ、マジ、うまいっす。甘いつぅか、もっと奥行きがあるっていうか」と言ってみるだけで、言葉に存在感が増すはずだ。
さっそく会議で主語を入れて話してみたところ、みんなが晴に目を向けた。効果があるようだ。
しかし、課題はまだまだある。「中田晴らしさ」を発見するにはどうすればいいか、ということだ。
エドのアドバイスは、過去のアルバムの中から、みんなに「中田晴の個性」として覚えてもらえるような写真を探し出してみることだ。料理が好きな晴は、お母さんとカレーをつくっている写真を見つけ出した。
次に、その写真を見ながら「中田晴の物語」をつくってみる。ここで大切なのは、料理が好きになった理由である。「私は小さい頃から料理が好きでした。母と台所に並んで、母が煮物をしている間にジャガイモの皮を剥いたりしていました。母に『上手ね』なんて言われると嬉しくなったものです」といった具合だ。
そしてそれに今の状況を付け加える。「今でも料理が好きです。キャベツの千切りでストレス解消をしています」。これを自己紹介で話したり、SNSに投稿したり、毎日お弁当を持っていったりして、料理好きをアピールすれば、「料理好きの中田晴」というイメージがついてくるだろう。
「料理好きなら結構アピールしているよ」と思うかもしれない。しかし「料理が好きな中田晴」と「ストレスが溜まるとキャベツの千切りをする中田晴」ではどちらが人の頭に残るだろうか。
アピールを続けるうちに、新レシピの相談や新商品の味見の話などが自然とやってくるようになるだろう。このように、相手の頭の中に自分にとって有利な印象を残す写真を貼り付けることで、自分らしさを生かせる仕事ができるようになる。
それでも晴は、自分を表現するのが苦手だ。特に自己紹介は苦手である。
そんな晴に、エドは「○○しばり」で自己紹介するように言う。
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