精神科医である著者のもとには、何年も治療しているのに病気が治らないというメッセージが多く寄せられる。そうしたメッセージから伝わってくるのは「必死さ」だ。病気に苦しみ、治すためにとにかく頑張っているのだろう。
そういう人は、もう少し肩の力を抜いてほしい。病気を治そうと頑張れば頑張るほどストレスが膨れ上がり、あなたをさらに苦しめている可能性があるからだ。
著者の考える「治る」の定義は、「苦痛や痛みや不安が今よりも軽減、消失し、楽になる、症状がよくなる状態」である。この定義によれば、すべての病気は「治る」のだ。
その方法とは、病気と闘わず、否認、受容、感謝の3ステップを踏むこと。言い換えると、自分の感情をコントロールすることである。
闘病という言葉が示すように、「闘う」という姿勢で病気と向き合う方は少なくない。しかし、これはその人を「治る」からかえって遠ざけることになる。闘うことで、ストレスホルモンと呼ばれる「アドレナリン」が分泌されるからだ。
アドレナリンは、心拍や血圧、呼吸数の増大、骨格筋への血流増加、発汗などの反応を引き起こし、身体能力をアップさせて「闘う」状態をサポートする役割を果たす。短期間でみると「ストレスに対応するホルモン」「ストレスからの防衛ホルモン」として効果的に働くが、これが長時間続いたり、1日に何度も繰り返されたりすると、身体の機能を酷使することになる。心拍と血圧が上がるために血管が収縮し、血流が悪化し、全身の細胞に栄養が行き渡らなくなる。血液がドロドロになったり、血管の老化が加速したりもする。
アドレナリンは、「不安」「恐怖」「闘争」「怒り」「興奮」といった感情を抱いているときに分泌されるホルモンだ。病気と闘い続けると、アドレナリンがどんどん分泌され、さまざまな弊害を引き起こし、病気を悪化させることになる。
事実をすぐには受け入れられず、否定してしまう心理を「否認」という。医者からがんを告知された人が「私ががんになるはずない」と言ったり、恋人から別れを切り出された人が「冗談でしょう?」と言ったりするのが「否認」である。
否認は基本的な心の防衛システムであり、すべての人に共通した正常な心の動きだ。ほとんどの場合、時間とともに現実を受け入れられるようになる。
しかし病気の場合、否認を乗り越えなければ、治療を開始することすらできない。否認が続く限り、生活習慣を変えることも、服薬したり通院したりすることもないからだ。
否認してしまう理由となるのが、不安である。人間は強い不安を感じると、ノルアドレナリンという脳内物質が分泌されて、本能的に「闘う」か「逃げる」かの判断を迫られる。病気を告知されたとき、それを認められずに別の病院に行きたくなるのも、激しい口調で医師に抗議したくなるのも、そのためである。
不安を取り除いて否認を乗り越え、安心に至るために必要なものが、「信頼」「時間」「情報」だ。「信頼」は、医者と患者の関係性の中で醸成される。病気を治すのは医者と患者の共同作業なのだから、協力して歩んでいかなければならない。
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