2019年末から広がった新型コロナウイルス感染症は、本書が出版された2021年4月の時点でも収束を見せていない。同じような混乱は過去にも起こっている。2002年から2003年にかけてSARSコロナウイルス、2012年にMERSコロナウイルスが出てきたときも、世界は大騒ぎになった。これらのウイルスに共通しているのは、動物由来のウイルスが人に感染して病気を引き起こしたということだ。
新たな感染症を引き起こす新興ウイルスは、まったく無警戒なところから突然やってくる。予算が削減され、目先の成果が問われるようになった研究の分野では、今問題になっていることにしか研究対象にできない。現在の日本のウイルス研究では、研究されるウイルスの種類が偏り、研究者も少なくなってきている。しかし、選択と集中をせずに、どのウイルスについても万遍なく研究しておかないと、新興ウイルスの問題には対応できない。
医師が勉強するウイルスの数は、獣医が勉強するウイルスに比べるとはるかに少ない。動物にはそれぞれの種ごとにウイルスがあるため、動物のウイルスは非常に多いのだ。
その中には、変異して人に感染したら恐ろしいことになるウイルスがいくつもある。やっかいなことに、新興ウイルス感染症を引き起こすウイルスは、もともとの動物にいるときは何の病気も起こさないのに、種を超えて人に感染するようになったとたん、強毒性を発揮する。チンパンジーから人に感染するようになったエイズの原因となるHIV-1や、MERSコロナウイルス、SARSコロナウイルス、そして新型コロナウイルスもこれにあたる。
ニワトリに感染し、リンパ腫(リンパ球ががん化した病気)を引き起こすトリヘルペスウイルスは空気感染する。同じことが人のヘルペスウイルスで起きたら大変なことになるだろう。
しかし、現段階で人にも動物にも病気を起こしていないウイルスは、ほとんど研究されていない。
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