子どもが算数のテストで低い点数をとったとする。それを見た親が「あなたは本当に算数が苦手だよね」と言ったら、子どもは「そうだ、自分は算数が苦手なんだ」と思い込み、それを証明するような思考や行動をとるようになっていく。一方で、正解できた部分に目を向けて「ここができるようになったね」と伝えれば、子どもは認めてもらえたと感じ、次はもっと頑張ろうと思うようになる。
このように、反応や声かけを変えれば、子どもの自信も次の行動も変わってくる。子どもの思考や行動は、大人の反応や声かけによって作られるのだ。
思考や認知は言葉によって作られる。つまり、親の言葉によって子どもの考え方や世界の見え方が変わるといえる。
『3000万語の格差』(ダナ・サスキンド、明石書店)は、幼児期における声かけの重要性を示す良書だ。この本によると、貧困層の子どもたちが3歳までに聞く言葉の数は、社会的に成功している層の子どもたちに比べて3000万語ほど少ないという。
著者のダナ・サスキンド氏は、耳の聞こえない子どもに人工内耳を移植する小児外科教授だ。彼女は、早い段階で耳が聞こえるようになれば、その子は言葉を理解して標準的な生活を送ることができると考えていた。だが生後7〜8か月に人工内耳を移植した2人の子どもを比較すると、それぞれの言語能力に著しい差が見られた。1人は小学3年生のときに標準的な読み書きができるようになったが、もう1人は幼稚園レベルにしかなれなかったのだ。後者は、家庭での声かけが圧倒的に少なかったことがわかっている。
また、社会的に成功している家庭では、豊かな語彙やポジティブな言葉が使われる傾向にあることも明らかになっている。親の使う言葉の数や種類によって、子どもの将来が左右されるのだ。
社会が急速に変化する中、「子育てのやり方を変えないといけないのでは」と不安になっている人もいるようだ。しかし、社会がどう変わろうと、子育ての本質的な部分は何も変わらない。時代が激しく変化していくからこそ、本質に立ち返ることが重要である。
本書で伝えたいのは「『やめなさい』と制限をかけるのではなく、その子に合った可能性を見せること」だ。それなのに現代の日本は、「あれはダメ、これはダメ、もっと空気を読みなさい」と、その子の可能性をつぶしてしまう方向に向かっているように見える。
グローバル化とテクノロジーの進歩は、管理社会化を進めている側面がある。どんな情報も履歴に残り、趣味嗜好や行動がすぐにバレてしまうだけでなく、下手したら「晒される」。ますます「空気を読まなければならない感」が強まっているのである。
日本人はもともと、お互いの意図を察し合う「ハイコンテクスト文化」を持っている。しかしこれは世界のスタンダードではない。グローバルという観点でみると、価値観も体験も知識も違う人同士では、空気を読むことなどできるはずがないだろう。
日本は、以心伝心のカルチャーを持ちつつも、きちんと自己主張でき、自分で選択して行動できる文化へとバージョンアップすべきである。そのためには、子育てや教育の本質に立ち返り、子どもたちにかける言葉を変えることだ。子どもたちの自己肯定感を下げ、判断力を奪う声かけから、可能性をひらく声かけに変えていこう。
ここからは、子どもにかけがちな「呪いの言葉」を例に出し、その言葉をどう変えていくべきかを考えていく。
まずやめたい声かけは「人に迷惑をかけるな」だ。多くの親が子どもに言っていることだろうが、誰にも迷惑をかけずに、誰の手も借りずに生きている人なんているのだろうか?
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