著者は、『ニューエコノミー勝者の条件』など1990年代の著本の中で、「勝者総取りの法則」や「フリーミアム経済」、「収穫逓増の法則」などの動向を予測した。テクノロジーに耳を傾け、「テクノロジーは何を望んでいるのか?」を問いかけることにより、精緻な予測、分析が可能となる。
5000日後の未来を見通すと、AIは最も大きなトレンドになるだろう。AIの進歩によって仕事の仕方が大きく変わり、百万人単位の人たちが一つのプロジェクトで同時に協働できるようになる。
そのための有力なツールが、例えばAR(拡張現実)の機能がついたスマートグラスだ。このグラスで離れた人同士がまるでその場で対面しているように交流できる。また、リアルタイムの自動翻訳により、世界規模での共同作業も可能となる。
近年、著者が提唱している「ミラーワールド」というAR世界においても、深遠な共同作業が必要になる。ミラーワールドは、現実の世界に覆いかぶさる地球サイズのバーチャルな世界だ。スマートグラスなどを通して現実世界を見ると、現実の風景に重なる形でバーチャルの映像や文字が出現する。時間をさかのぼって過去の街並みを呼び出すこともできるだろう。
第一のプラットフォームであるインターネットは、検索して答えを出せる仕組みを実現した。続く第二のプラットフォームとして、人間同士の関係性をデジタル化するソーシャルメディア、SNSが出現した。そして、第三のプラットフォームが物理的な全世界をデジタル化するミラーワールドだ。ミラーワールドにおいては、AIがどこにでも存在することで、世界が構造化されて意味的につながり、ARを通じて視覚情報に変換される。
ミラーワールドは新たな力と富を生み出すが、勝者はGAFAの誰でもないはずだ。破壊的テクノロジーの歴史を振り返ると、ある分野で支配的だった会社がそのまま残ることはなかった。次に勝つのはARの会社になるだろう。
いまの時代は、「AIの時代」の最初の段階にあると考えられる。AIを利用するために、コンピューターを持ち歩く必要はない。われわれがコンピューターに取り囲まれ、それらが反応する世界に没入し、それらと共に生きているような環境ができていくはずだ。
現在のAIは、大量のデータを使って学習を進めているに過ぎない。つまり、われわれが脳の中でやっているほんの一部を合成して作ることしかできていないのだ。
AIはこれからますます進化を遂げる。AIによって仕事を奪われると考え、危機感を抱く向きもあるかもしれない。しかし50年も経てば、一般的に新しいテクノロジーは、仕事を奪うよりは増やすのだ、と理解できるだろう。その時代にはさらに新種のAIが登場し、人々は現代と同じように案じているにちがいない。自分のアイデンティティーを変えるという意思を社会全体で持つことができれば、AIがもたらす変化に追随することができる。
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