1962年9月、ジョン・F・ケネディ大統領は演説で「人類がこれまでに着手した中で、最も危険で困難で偉大な冒険に乗り出す」と発表した。7年後の1969年7月20日、アメリカは月面着陸を成功させた。かの有名な「アポロ計画」である。
アメリカ政府はアポロ計画に280億ドル(2020年の価値に置き換えると2830億ドル)を投じた。国家予算の4%に当たり、米航空宇宙局(NASA)、大学、請負業者など40万人以上が携わった。
アポロ計画は政府が主導権を握り、コンピュータや電気機器、栄養学や材料など、中小企業から大企業までありとあらゆる民間企業と連携して取り組んだ。団結してひとつの方向に向かう原動力となったのは「自分たちは大きなミッションの一部だ」との気概だった。
今の社会課題の解決には、官民が手を取り合って臨む「ミッション志向」が求められている。感染症の世界的流行、環境問題など「やっかいな」問題は、テクノロジーのイノベーションだけでなく、社会と組織と政治のイノベーションがなければ解決できない。
世間の根強い思い込みに「企業こそが価値を創造する」というものがある。政府の仕事はゲームのルールを決め、規制し、再分配し、市場の失敗を直すことだと思われがちだ。
公的機関は自ら社会課題を解決しようとはせず、公共事業の民営化や外注を進めてきた。民間企業主導の方が効率的と誤解し、節約になると期待しているのだ。
しかし実際は、価値創造とそのためのリスクテイクに政府の役割が求められる。たとえばシリコンバレーの確立は、国家によるハイリスク投資のたまものだ。民間部門が尻込みするリスクの高いテクノロジー開発に対し、初期に投資したのは政府だった。
インターネットの誕生につながる投資を行ったのは、国防総省内の国防高等研究計画局(DARPA)である。ワールド・ワイド・ウェブの発明の母は、欧州原子核研究機構(CERN)だった。他にも、GPSはアメリカ海軍の資金で開発され、SiriはDARPAの資金によるものだった。タッチスクリーンディスプレイの開発資金は当初CIAが提供した。
イノベーションのプロセスに公的機関の関与は欠かせない。大胆な公共投資がなければ、長期かつ多額で先の見えない事業への投資に、民間企業は躊躇するはずだ。公共部門がリスクを背負った後にこそ、生まれてくるチャンスに民間企業は飛び乗ってくる。
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