新型コロナパンデミックの中、藤井聡太氏の快進撃は目を見張る快挙だった。本人は最年少記録を意識していなかったというが、三冠時点の最年少記録は羽生善治氏の記録を3年以上更新している。将棋界を代表する棋士となった今は、より良い将棋をさしたいという気持ちが強くなったそうだ。
コロナの影響は将棋界にも及んでいた。2020年4月と5月は対局できない状態が続いた。藤井氏はその期間に自分の将棋を見つめ直した。将棋ソフトの検討、そのソフトとの対戦、そして息抜き。1日平均6時間から7時間を将棋に費やし、それまで取れなかった空いた時間を研究に充てることができた。
山中伸弥氏が所属するCiRA(サイラ・京都大学iPS細胞研究所)も同時期の2カ月はほぼ活動を停止していた。以降も出勤を半分にしてオンライン会議や在宅を活用した。実験は研究所で行う必要があるが、働いている人の密度を半分くらいにしても8割程度の研究ができると想定し、データ整理は在宅で行うようにした。
パンデミックは個人の力で変えることはできないし、社会全体で取り組んでも短期間で終息しない。村上春樹氏は今の状況を「雨に文句を言っても仕方ない」と言った。誰に文句を言ってもウイルスは消えない、だから今できるベストを尽くすと山中氏は言う。
ワクチンが普及してもすぐに終息はしないだろう。不自由や制限があることは受け入れ、前向きにできることは何かを考えて過ごしている。
山中氏は日本の研究者には柔軟性が足りないと指摘する。元々欧米には感染症やワクチンの研究者は多くなかった。しかし、専門外の研究者が自身の研究をコロナ対策に生かせないか、一斉に動いた。その結果がワクチン開発の圧倒的な差だ。欧米の科学者は、自分で限界を決めずに高い柔軟性を持っている。
その姿勢に対し、日本の科学者は遅れを取った面もある。日本の縦割り構造は平時には有効かもしれないが、非常時は弊害になる。限界を決めずにフレキシブルな思考を持つ人材や力を備えることが、日本の課題だ。
藤井氏が将棋を始めたのは5歳の頃。
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