ハブられても生き残るための深層心理学

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ハブられても生き残るための深層心理学
出版社
出版日
2021年11月26日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「鶴の恩返し」という昔話がある。鶴が人間に姿を変え、自分を救ってくれた男のために身を犠牲にして反物を織り、恩に報いる有名な説話だ。鶴は男に「機織りの様子を決して覗かないこと」と約束させるが、男はついには覗いてしまう。鶴は自分の姿を見られたことを恥じて飛び去っていく。

ここでもし、鶴が去らない結末があったとしたら、話はどう続いていっただろうか。果たして幸せに添い遂げられただろうか――。

「ハブられる」とは、集団から排除される、仲間外れにされるという意味の言葉である。ハブられる現象は日本に限ったものではない。しかし、同質性の高い「日本人」の集団においては、自分たちと異なる「異類」を無意識に排除する集団心理が働きやすいと、本書は指摘する。

先の「鶴の恩返し」は、人間ではない=異類である鶴と人間が結ばれる「異類婚姻説話」である。この他にも異類婚姻説話は世界に多く存在するが、日本ではそのほとんどが、最後は異類が排除される(去っていく)結末を迎えるそうだ。この悲劇のパターンは日本人の「心の台本」として刷り込まれ、無意識的に踏襲されていると著者は指摘する。

集団からのいじめや無視をきっかけに、学校や会社に行けなくなる人は多い。最悪の場合、自ら命を絶ってしまう事態も起こり得る。悲劇的な結末を回避するためには、無意識のメカニズムを理解して、「排除された者は去るべき」という心の台本を書き換えることが大切だ。

ハブられる可能性は誰もが持っている。たとえハブられたとしても、生き残るための術を本書から学び取ってほしい。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

きたやま おさむ
1946年淡路島生まれ。精神科医、臨床心理士、作詞家。九州大学大学院教授、白鷗大学副学長などを経て、九州大学名誉教授。2019年より日本精神分析協会精神分析的精神療法家センター長、2021年より白鷗大学学長。1965年、京都府立医科大学在学中にフォーク・クルセダーズ結成に参加し、67年「帰って来たヨッパライ」でデビュー。68年解散後は作詞家として活動。71年「戦争を知らない子供たち」で日本レコード大賞作詞賞を受賞。その後、精神科医となり、現在も精神分析的臨床活動を主な仕事とする。
著書に『コブのない駱駝』(岩波現代文庫)、『最後の授業』(みすず書房)、『帰れないヨッパライたちへ』(NHK出版新書)、『ビートルズを知らない子どもたちへ』(アルテスパブリッシング)、『良い加減に生きる』(前田重治氏との共著、講談社現代新書)、『「こころの旅」を歌いながら』(富澤一誠氏との共著、言視舎)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    集団から排除される「ハブられる」という現象は、自分の知らないうち、裏で隠れて進行することが多い。
  • 要点
    2
    集団は自分たちと似た者を取り入れ、異なる者を吐き出すという基本傾向を持つ。これは無自覚に繰り返されやすい。
  • 要点
    3
    人生は劇に似ている。劇場には舞台のほか、役を降りてほっと一息つける「楽屋」もある。「人生の台本」の存在を知り、よりよいものに紡ぎ直していくことが大切だ。

要約

「ハブられる」という現象

同類幻想が生み出す「悲劇」
spfoto/gettyimages

「ハブられる」という現象は日本特有のものではない。しかし、国際的に見て、等質性の高い「日本人」という集団では、「私たちはみんな同類である」という幻想を抱く人は少なくない。

この「同類幻想」は、ときに悲劇的な展開を生み出す。同類幻想のせいで、異質な少数がのけ者にされたり、同調できないと変わり者扱いされたりすることがあるからだ。

「ハブられる」は、知らぬ間に裏で進行していることが多い。表面上は穏やかな人間関係に見えていたが、気がついたら自分だけ排除されていたという具合だ。ハブられている本人が気づかない場合もある。「根回し」という言葉があるように、裏で起きているコミュニケーションを知らないと、いつの間にかハブられているということも起きかねない。

ハブられると、悲劇の主人公を演じさせられることもある。集団から排除されてしまった自分、こんな自分はいなくなればいい――。このような思考に陥ると、自分だけが潔く去ることになってしまう。

実は、日本人の文化の中には、こうした悲劇の主人公を演じさせるような「台本」がすでにある。潔く去っていくという結末が「みんなの物語」として用意されているのだ。そのため知らず知らずのうちに、多くの人が悲劇の主人公のパターンを踏襲してしまっている。

この物語を書き換えるには、見えにくい現象を可視化しなければならない。そして、自分が排除の対象になってしまったら、その物語の舞台から降りることが大切だ。

人生を劇としてとらえる

ハブられている人たちは、突然迷子になってしまったような心境に陥る。今まで仲間だと思っていた人たちが、自分をのけ者にして裏でつながっていた。もう誰を信用していいかわからない……。一人で悩んで考え込む、「一人芝居」を舞台上でくり広げているような状態である。

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要約公開日 2022.02.11
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