組織について語るとき、空回りしてしまうことは往々にしてある。それは人によって組織の見え方が異なるからだ。噛み合った議論をするためには組織を語る際に、「どんなレンズを通して見ているか」という観点と、「どの立ち位置から見ているか」という視点を合わせる必要がある。
具体的には、人事制度や組織構造といった「ハード」の方法論によるアプローチがある。一方、モチベーションやリーダーシップ、またコミュニケーションや育成といった、組織内の個の生産性を高める「ソフト」のアプローチがある。世の中の流れはハードからソフトへ移行してきている。
本書では、組織を生態系や生理学の観点で捉え、生きているオープンシステムとして考えることで、情報の流れとプロセスに焦点を当てていく。
生命体になぞらえられる「有機的組織」は、自らも成長しつつ、柔軟なネットワークを形成し、構成員の相互依存関係を結ぶ。また、常に情報を外部から取り入れ、それをリアルタイムで処理し反応するシステムであるということに特徴があると考えることができる。
社会人類学的には、欧米人の社会学的単位は「個人」である一方、日本人は5~7人程度の「小集団」であるといわれる。オープンシステム観に基づく有機的組織を考えた場合、個と個の関係性から生まれる成果を重視する考え方が、日本人の精神構造に合致しそうだ。
こうした組織観と親和性の高い「自己」とはどのようなものだろうか。それはいわゆる「利己的な経済人」ではなく、利他性や他者への共感をベースとする相互協調的な自己観であるといえるだろう。
では、これらのマインドをもった個と個は、どのように信頼関係を構築するのか。人は信頼されたと感じると、脳内にオキシトシンという神経物質を合成する。この物質が合成されると、人は受けた信頼に応えようとする。こうした信頼を信頼で返すメカニズムがあるので、互いが信頼し、個々人よりも組織全体の意向に沿うことができるのだ。
つまり、この利他性と信頼のメカニズムをよりしっかりと持った集団のほうが、生き残る可能性が高いということになる。
人と人とのつながりである関係性には3つの種類がある。市場における独立した個の利己性に基づく自由なつながり、上意下達の指示やルールによって合理的に動くつながり、そして信頼や共感をベースとした相互依存関係によるつながりである。
3,400冊以上の要約が楽しめる