人に何かを伝える時、著者は必ず「言葉の試着」をしている。言葉を試着するとは、「誰かからその言葉を言われたらどんな思いになるか」を、自分にあてがってみることだ。
例えば「もう少し優しく接した方がいいんじゃない?」と、自分が言われたらどう感じるだろうか。おそらく、気の利かない、雑な人間だと言われているような気になってしまうだろう。言葉を試着してみるだけで、相手の立場で言葉を選べるようになる。
新型コロナウイルスの感染拡大によって余裕をなくしていった世の中では、スーパーのレジやタクシー運転手など、人と接触する機会の多い仕事の人たちが悲しい扱いを受けた。
「もう少し優しく接することはできないだろうか」。そう感じた著者は、言葉の試着を繰り返した末、「神対応」という言葉にたどり着いた。「お客様は神様ですから、店員さんにも神対応でお願いいたします」
アイドルがファンに対して、期待以上の対応をしてくれた時につかう「神対応」。「謙虚な気持ちで」「身内だと思って」など、いくつかの言葉を着せ替えてみたが、インパクトがあって誰も傷つけず、かつ「一言」で表現できるこの言葉を選択した。
とはいえ、中には「神のように上から目線で」と誤解する人もいた。他人がどう受け取るかは正確に予測できない。しかし、言葉がどう届くかを再度確かめることで、後悔のない言動につながっていく。
メッセージは「うす味」がちょうどいい。うす味とは、「その言葉に味の調整をする余地を残しておくこと」である。
うす味を目指すのは、「言葉を必要としている人に伝える」ためである。著者が担当しているニュース番組では、困っている人や助けが必要な人に向けてのメッセージが多くなる。そんな人たちへは「安心してもらえる味付け」が求められる。
単なるうす味でなく、思いが伝わる「旨味」のある言葉を添えることも大切だ。旨味を生かすには、言葉の味付けはうす味の方がいい。
うす味の実現には「味の確認」が必要となる。言葉の着せ替えと同様に、狙い通りの味が出せたかを再確認する。言葉を発する側の感情は強めに出やすいため、この確認はとても重要だ。
例えば、なかなか成長しない後輩に発破をかけたいとする。「もっと勉強しろ」と言いたいところだが、味が濃すぎて相手は受け付けないだろう。その場合、少し薄めて「そろそろ勉強したら?」、さらには「勉強するには、いいタイミングなんじゃない?」と言い換えてみる。後者には「いいタイミング」という旨味の言葉を加えている。これでようやく、後輩は動き出してくれるかもしれない。
「指示から提案へ」変え、そして「ウィットとメリット」を添えると、同じメッセージでも伝わり方がまるで違ってくる。これが、伝わる仕組みである。
誰かと会話をする時、相手に気持ちよく話をしてもらうためには、次の3つのステップを踏むとよい。
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