人の心は「子どもの人格である部分(内なる子ども)」と「大人の人格である部分(大人の自分)」で構成されている。「内なる子ども」とは、子ども時代につくられた意識されていない部分の喩えであり、ネガティブで悲しい面とポジティブで幸せな面を持つ。それに対し、もう一つの人格部分である「大人の自分」は合理的で理性的である。物事を予測し、リスクを検証し、「内なる子ども」をコントロールするという意識的に行動する存在だ。
人格をいくつかに分けて考えることは、ジークムント・フロイトが初めて提唱した手法である。世の中には人格をさまざまに分類した心理療法があるが、本書では簡素化するために「陽気な内なる子ども(日向子)」と「傷ついている内なる子ども(影子)」「大人の自分」の3つとする。
著者は心理療法士としての長年のキャリアを通じて、この比喩を用いることでほぼ全ての問題を解決する手法を開発した。ここで「ほぼ」とあるのは、病気や死別、戦争などといった自らコントロールできない問題は除外されるからである。ただし、そうした運命的な問題をどうやって克服するかという局面に関しても、本書のアプローチが有効な場合がある。なぜなら本書のアプローチがもっとも役に立つのは、「自分自身で問題をつくってしまっている人」だからだ。自分の責任の範囲内にある問題は解決できるのである。
子どもの頃の経験の多くが無意識のもとに保持される。私たちの行動のうち70〜80%が無意識によって決定されていることが科学的に証明されている。
誰しも無意識の中に「日向子」と「影子」が存在する。だが、子ども時代につらい経験が多かった人は、日向子をなかなか表に出せなくなっている。また人間関係において繰り返し問題を起こすのは影子の部分である。傷ついている影子の部分をケアしないと、問題が起きやすくなるのだ。
日向子と影子の人格の大部分は、生まれて6年間でできあがる。この時期に脳の構造がほぼ完成するのである。
どのような親であっても完璧ではない。それゆえ、どの人も子供時代に何かしら心に傷ができ、「自分はダメだ」という信念を持つ影子が生まれる。そして誕生後の2年間で、親との関係において基本的信頼感が育まれなかった人は、意識の深いところで不安定になり、まわりの人にも不信感を抱きやすくなるのだ。
人間の心理的な基本的欲求は歳を重ねてもあまり変わらない。基本的な欲求とは、「結びつき欲求」「自由欲求」「快感欲求」「承認欲求」の4つである。これらの欲求が一つ以上充足しないと、ストレスや苦しみ、怒り、不安を感じることとなる。
問題に直面したときに、どの基本的欲求が満たされていないのかを考えることで、問題の解決策が見つかりやすくなる。自分がどの基本的欲求にひどくこだわっているのか。それには幼少期のどのような体験が影響しているのか。それらを考えることで、自己認識と問題解決が進んでいく。
基本的欲求のどんなところが満たされないことが多かったか、あるいはその際にどのように周囲に扱われたかといったことの影響を受けて、「内なる子ども」は「信念」をつくり出す。信念とは、自己価値や他者との関係に関する、心の奥深くにある確信だ。たとえば、「私は歓迎されている」、「私は雑に扱われる」などである。
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