本書は、東京大学で経済学を教えている柳川範之教授と、元・陸上競技選手で現在はスポーツの枠を超えた幅広い活動を行う為末大氏の共著である。柳川氏は父親の仕事の都合でブラジルに滞在し、学校に通わず独学で高校の勉強をしていた。また、為末氏は陸上選手時代コーチをつけずに練習し、引退後はビジネスパーソンにキャリアチェンジを行った。変わった形で自発的な「自分なりの学び」を経験してきた二人は、キャリアを考え、いくつになっても学び続ける素養として、これまでの学びに重視されてきた「インプット」以上に重要なものがあると考えている。それが「アンラーン(unlearn)」だ。
アンラーンを分かりやすく言い換えると、「これまでに身につけた思考のクセを取り除く」ことだ。人は、環境に適応して発想や選択をある程度パターン化することで、スムーズに物事を進められるようになっている。しかし、特定の環境に適応し過ぎると、環境が急変してパターンが通用しなくなった際に、「やったことがない」「前例がない」とすぐに対処することができなくなってしまう。パターン化された思考のクセは、柔軟な発想を妨げ、成長を止めてしまうことがある。そうならないために、思考のクセを捨て、より良い学びを実践しなければならない。そのための技術が、アンラーンだ。
為末氏によると、アスリートには競技能力を高めるプロセスで、アンラーンが必要とされる。たとえば、自転車に乗れるようになった人は、無意識にペダルを漕ぐようになっている。しかし、トップの自転車選手になりたければ、無意識でできるようになったペダリングをいったん忘れて、意識的にラーニングし直すことで、動きを調整しなければならない。この「競技能力を高める」ことを一般人に置き換えると、「社会で生き抜く能力を高める」ことになるだろうと柳川氏は指摘する。
アスリートが「ついてしまった変なクセ」を直さなければいけないように、ビジネスパーソンも「ついてしまった思考のクセ」を直さなければいけないときがある。たとえば、効果的なプレゼンの方法を身につけ、思い通りに仕事を運んだ経験をした人は、次回からも同じ方法でプレゼンしようとするものだ。いつの間にか「プレゼンのやり方」がパターン化し、無意識に「いつもの」プレゼンをやり続けるようになる。しかし、本来はプレゼンに絶対的な正解はない。パターン化されたものがたまたまうまくいっていたとしても、テーマや相手、マーケットなどが変われば、やがて必ずうまくいかないタイミングが訪れる。このとき、プレゼンで無意識に行っていることを意識的に認識し直し、修正するのが、アンラーンだ。
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