宇宙ビジネスに関するリサーチをしていた著者は、友人とともにスペースXの創業者、イーロン・マスクに会うチャンスを得た。イーロンの1分間には数千ドルもの価値があり、会える機会などめったにない。抜かりなく準備をしてスペースXのオフィスに出向いたが、顔を合わせたとたん、イーロンは「ノー」と言って2人を追い払おうとした。
著者はこのとき、ハッと気づいた。イーロンの視線が、自分たちの顔ではなく、友人の持つプレゼントに向けられていることに。イーロンのもとには、何かをせがんだり、求めたりする起業家がひっきりなしにやってきているはずだ。きっと「また起業家が試作品を持って売り込みにやってきた」と勘違いしたのだろう。
そう気づいた著者は、くすくすと笑って言った。「私たちが……売り込みにきたと……思われたんですね?(ここで我慢できずにまた笑い声をあげる)私たちはおカネの無心にきたんじゃありません……そりゃ、あなたはお金持ちかなにかなんでしょうけれど」
この台詞がツボにはまったのか、イーロンも笑い始めた。そして2人を受けいれ、夢中で議論しただけでなく、スペースXの事業部門トップの連絡先まで教えてくれたのだった。
著者らが形勢を逆転できた理由は、「エッジ」(EDGE)を獲得したからだ。エッジを獲得するとは、生まれつきの才能がなくても、自力で優位に立てると自覚すること。とりわけ、勝負どころで難局を乗り切ろうとするときに優位に立てることをいう。
人はだれしもその人独自の観点で他人を認識し、ジャッジしている。その認識にはとてつもないパワーがあることをまず理解しよう。そのパワーを逆手に取れば、エッジをつくりだすことは可能だ。
エッジを獲得すると、どれほど不平等な状況に置かれていようと、どれほど偏見をもたれていようと、ミーティングでの売り込み、就活の面接、大勢の聴衆を相手にしたプレゼンなどといった勝負どころで本領を発揮できる。不利な形勢を逆転し、独自の強みに変えるために、あなただけのエッジをつくりだそう。
資金調達ができないベンチャー経営者、組織で昇進できない人、平等な治療を受けられなかったばかりに救急救命室で命を落とす患者――。著者はこれまで、過小評価される人や不利な立場に置かれている人のことを研究してきた。その結果わかったのは、相手に対する判断、信頼に足る人なのか、熱意はあるのか、責任感があるのか、人とうまくコミュニケーションをはかれるのかといった判断が、客観的なデータよりも意思決定を左右するということだ。つまり、他人が自分をどう認識しているのか、そうした認識がどう作用しているのか、自分の性格や能力を他人がどう決めつけているのかがわかれば、成功への道は開ける。
エッジを獲得できる人は、相手を豊かにし(Enrich)、楽しませ(Delight)、こちらが望む方向に誘導する(Guide)ことができるうえ、このサイクルを繰り返して、いっそうの努力を続ける(Effort)。本書の核をなすのは、この4つのキーワードだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる