2021年はドストエフスキー生誕200年にあたる。ドストエフスキーが生まれたのは1821年、日本は江戸時代だ。200年も前に生まれた作家だが、その作品は今なお世界中の人々に読まれ続けているし、おそらく100年後にも読まれているだろう。時代を越えたその魅力はどこにあるのか。そして、現代日本に生きる私たちはどのようにドストエフスキーを読めばいいのか。
資本主義が誕生し急速に発展した時代に生まれたドストエフスキー作品では、格差や社会の歪み、そこであがきながらも闘う人間の姿が描かれている。そのためか、ドストエフスキーは危機の時代によく読まれてきた作家だ。新型コロナウイルスの流行によって世界的に格差が拡大し続けている今も、読まれるべきタイミングであろう。
新型コロナウイルス対策をめぐって「命か、経済か」という議論がある。命のほうが大事なのは当然だが、そもそも資本主義社会とは「労働力を商品化する」、つまり命とカネを交換するシステムで成り立っている。システムを変えなければ格差は止まらないが、具体的にどうすれば有効なのかは難問だ。こういう難しい時代に、「生き抜くためのヒント」がひそんでいるドストエフスキーを読むのには大きな意義があるだろう。
『罪と罰』は、〈非凡人〉の大義のためなら〈凡人〉の命を奪っても構わないと信じた大学生・ラスコーリニコフが高利貸しの老婆とその義妹を殺し、信心深い娼婦ソーニャとの対話をきっかけに罪の告白に至る物語だ。告白を受けたソーニャは『罪と罰』全編における決定的なセリフを口にする。「ひざまずいて、あなたがけがした大地に接吻しなさい」だ。
ここで明らかになるのは、ソーニャの信仰の対象がキリスト教ではなく、ロシアの大地であるということだ。
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