教養としての「ローマ史」の読み方

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教養としての「ローマ史」の読み方
出版社
出版日
2018年03月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「なぜ、ローマは帝国になり得たのか」。そしてもう一つ、「なぜ、ローマ帝国は滅びたのか」。私たちは、ローマ史の本を読むとまずこの疑問を頭に浮かべる。本書はこの本質的な問いに、著者ならではの見解も含め丁寧に答えてくれる。

500年も続いたローマの共和政がなぜ独裁的な皇帝政治を受け入れるようになったのか。その後も西ローマ帝国の終焉までの700年、どのような要因が絡んでいったのか。著者はこういったローマ史を学ぶことで、世界史や現代世界を理解するうえでの「座標軸」を身につけることができるだろうと述べている。

しかし、本書はまったく難しくない。なぜなら、出来事とその起こった年号を覚えるような教科書的な歴史ではなく、歴史的人物の性格や人間性に迫りながら、いきいきとしたドラマを展開しているからだろう。やはり人間が歴史をつくるのだ。高名な政治学者である丸山眞男は「ローマ史には人類の経験が凝縮されている」と言った。本書はその言葉への挑戦でもある。

著者も書いているように、過去には、アレクサンドロス大王の帝国、モンゴル帝国、イスラム帝国などの「帝国」があった。そして現代においてもアメリカ「帝国」や中華「帝国」が存在する。こう考えてみると、この本はいろいろな示唆に満ちた本になっている。良い本は良い問いを生んでくれる。創造的な読書とはこういう体験のことを言うのだろう。ぜひ体験してほしい。

ライター画像
たばたま

著者

本村凌二(もとむら りょうじ)
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年、一橋大学社会学部卒業。1980年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授などを経て、早稲田大学国際教養学部特任教授を2018年3月末に退職。専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。
著書に『地中海世界とローマ帝国』『愛欲のローマ史』(以上、講談社学術文庫)、『多神教と一神教』(岩波新書)、『ローマ帝国 人物列伝』(祥伝社新書)、『競馬の世界史』『世界史の叡智』(以上、中公新書)、『集中講義! ギリシア・ローマ』(共著、ちくま新書)、『教養としての「世界史」の読み方』(PHPエディターズ・グループ)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ローマは、独裁を防ぐためのバランスの良い政治の仕組みと、粘り強く戦う軍隊、祖国への帰属意識により、地中海の覇者となった。
  • 要点
    2
    内戦を制したカエサルが暗殺され、その後継者となったオクタウィアヌスがローマ史上初の皇帝となる。しかし後継者を選ぶ難しさはその後、暴君も生んでしまう。
  • 要点
    3
    人類史上もっとも幸福な時代は、「パクス・ロマーナ」と言われる五賢帝の治世のときである。
  • 要点
    4
    ローマ帝国は、経済の衰退や、異民族との諍い、非寛容になってしまった人々の性質によって滅んだといえる。

要約

なぜ、ローマは世界帝国へと発展したのか

「共和政」を自ら選んだローマ

建国の王ロムルスの名をとった「ローマ」。この初代の王の治世は37年に及び、このとき元老院や市民集会といった、その後の共和政にも引き継がれるローマの基礎が築かれた。

しかし時代が下るにつれ王に対する民衆の反感が強まり、王家一族は追放される。王に代わるものとして任期1年限りの政務官と、民会、元老院の三者による共和政が始まった。その背景には「自分たちは自由である」というローマ人の集団的自由意識がある。

古代地中海世界においてローマが唯一大国に成長することができたのは、この「反独裁のためのシステム」として機能した共和政のバランスの良さにあったといえよう。

ローマ軍の強さの秘密
Manakin/gettyimages

ルネサンス期の思想家マキアヴェリは「ローマ人は、屈辱が大きければ大きいほど復讐心に燃える民族」だと述べている。勝利を手にするまでねばり強く戦い続けるのがローマだった。

地中海貿易で栄えていたカルタゴとのポエニ戦争がまさにそうだった。この戦争は、一度目はローマが勝利したものの、約20年後カルタゴには猛将ハンニバルが登場し、ローマはカンナエの戦いで歴史的な敗北を喫する。

しかしローマは、勇敢に戦った敗戦将軍を受け入れ、失敗から学ぶ大切さを知っていた。そして、ハンニバルの戦法を研究していた当時25、6歳のスキピオに、全ローマ軍の指揮権を与える。不思議な魅力をもつスキピオはカルタゴを取り囲む各地の人心を掌握して味方につけたこともあり、カルタゴに圧勝することができた。

共和政ファシズム

政治と軍事が一体となり、「先手防衛」で他国への侵出を自国の生存権として行った点で、この時の国家は「共和政ファシズム」と呼ぶことができる。

なかでもローマ人は「祖国」すなわち「公」に対する強い帰属意識をもっていた。かれらは幼いときから、勇気や名誉はどうあるべきかを祖父や父に叩きこまれてきたからだ。ローマ人はそうして、人の為す気高い行為に価値を見出していたのである。

カエサルからアウグストゥス、そしてネロ

格差の広がりから対立へ

ローマは、地中海全域の覇者になる過程の戦乱でその国土が荒廃した。困窮した農民が手放した土地を貴族が安く買い占め、農民は大都市に流入して、政治的に無視できない無産市民となった。

その状況を改革しようとしたグラックス兄弟の死後、平民派と閥族派(元老院派)の対立が激化する。さらには奴隷たちが、故郷への帰還を求めて、指導者スパルタクスのもとに反乱を起こすことになる。

この反乱の鎮圧で名をあげたのが、貴族のクラッススと若き武将ポンペイウスだ。そして、大神祇官の職に就きながら軍功も手にしたカエサルが二人を引き込み、三者で政治体制を作ることになる(第一次三頭政治)。

しかし妻ユリアとクラッススが戦死すると、元老院に担ぎ出されたポンペイウスがカエサルと対立する。カエサルは「賽は投げられた」と発してローマに反旗を翻す決意をし、武装したままルビコン川を渡った。戦術に勝るカエサルに敗れたポンペイウスは、内紛に巻き込まれたくないエジプトの手によって殺された。

英雄カエサルとローマ皇帝の誕生

カエサルのローマでの活躍はわずか2年だった。それでも彼が急ピッチで改革を実行できたのは、イタリア半島の新興貴族を元老院へ送り込み、元老院に支持者を増やしたからだ。しかし、高いカリスマ性と寛容さを備えていたカエサルも、「独裁者になる危険を持つ人物」として、元老院派に暗殺されてしまった。

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要約公開日 2022.02.23
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