現代ロシアの軍事戦略

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出版日
2021年05月06日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

ロシアによるウクライナへの侵攻が続き、国際情勢がかつてないほど緊迫している。

本書はタイトルの通り、ロシアの軍事について日本人の専門家が書いた一冊だ。出版されたのは2021年5月、今のロシアがなぜこのような行動に出ているか、そのヒントがちりばめられている。予見的な指摘も少なくなかった。

軍事の専門家という観点から、ロシアの国防や外交の文書をつぶさに読み解いているのはもちろん、欧米を中心とした「西側」のロシア専門家の見方を幅広く分析、紹介し、また持論も展開している。

紙幅の関係で紹介しきれないのが残念だが、「演習」に関するロシアの訓練実績を時系列で細かく追い、その内容や狙いの変化を的確に捉えている。軍の強い反発に「驚く」プーチン大統領の様子など、内実が事細かに描写され、実に興味深い。

そのほか、択捉島を「衛星画像サービスで確認」するといった、独自の視点が多々盛り込まれている。「西側」と見られている日本が取るべきスタンスについても示唆に富む。

今、時々刻々と変化する世界情勢を読み解くうえで、視座を高めてくれることは間違いない。

著者

小泉悠(こいずみ ゆう)
1982年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。著書に『軍事大国ロシア── 新たな世界戦略と行動原理』(作品社、2016年)、『プーチンの国家戦略──岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版、2016年)、『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019年、サントリー学芸賞受賞)等。

本書の要点

  • 要点
    1
    ロシアにとってNATO未加盟の国々の中立をいかに保つかが、安全保障上特に重要だった。焦点はベラルーシやグルジア、ウクライナなど6カ国だ。
  • 要点
    2
    今のロシアには、非軍事的手段による戦争が現実に起きているという認識が広まっている。グルジアの「バラ革命」やウクライナの「オレンジ革命」を念頭に、同様の影響がロシアに及ぶのを懸念している。
  • 要点
    3
    ロシア軍の大演習は、あらゆる軍事紛争が最終的には西側との大規模戦争に行き着くと想定されている。ただ、大国との大規模戦争に直面すれば、兵力規模の小ささやハイテク化の立ち遅れにより、ロシアは劣勢に立たされるだろう。

要約

ロシアと西側

読解の上での基礎知識

本書では冒頭、ロシアの軍事に関する基礎的事項がまとめられている。本書の主役であるロシア軍(正式名称ロシア連邦軍)の兵力は2021年現在、定数101万3628人、実勢90万人程度とされる。うち、18~27歳の男子国民の義務で勤務期間12カ月の徴兵は25万人程度、残りは職業軍人として定年まで勤務する将校約21万人、期間勤務する契約軍人約40万人、各種学校生徒などだ。

ロシア軍の組織は、陸軍(SV)・海軍(VMF)・航空宇宙軍(VKS)の三軍種に加えて、独立兵科の空挺部隊(VDV)、戦略ロケット部隊(RVSN)などから成る。

また、本書に多く登場するロシア軍の「演習」は、軍事用語辞書『用語法及び定義における戦争と平和』によると、「総合的準備」の一環として位置付けられる。

総合的準備は、要員教育と部隊錬成の体系であり、『ロシア連邦軍事ドクトリン』に定められた国防上の目的にロシア軍を適合させるための作戦準備、戦闘準備、心理的準備、動員準備の4つの要素で構成される。演習の位置付けを理解するには作戦準備、戦闘準備が特に重要だ。作戦準備は、一つの戦争を指揮・運営する能力の獲得及び向上を目指す。

NATO拡大への反発
cosmonaut/gettyimages

ソ連の崩壊後、NATO(北大西洋条約機構)の拡大が続いている。チェコ、ハンガリー、ポーランドがNATOに加わった1999年以降順次加盟国が増え、最近では2017年にモンテネグロが加盟した。

ロシアは安全保障政策を包括する政策文書『ロシア連邦国家安全保障戦略』(2015年公表)でNATO拡大を「国家安全保障上の脅威」と位置付けるなど、不快感を露わにしている。

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要約公開日 2022.03.13
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