2018年11月19日、月曜日、日産本社の一室は、黒いスーツ姿の男女の一団に占拠された。エグゼクティブ・コミッティのメンバーが会議室に集まると、日産の当時の社長、西川廣人から、ルノー・日産・三菱アライアンス会長のカルロス・ゴーンが逮捕されたと伝えられる。現場には、何が起こったかわからないという空気が張り詰めていた。
同日の16時少し前、羽田に到着したプライベートジェットからゴーンは降り立った。ターミナルに向かい、入国審査を受けた際、係官から「パスポートに問題がある」と言われ、別室に案内される。そこで東京地方検察庁の男性が「ご同行願います」と言い、ゴーンは4、5人の男に囲まれて逮捕されたのだった。
さらに、アメリカ人の法律家で日産会長の執務室「CEOオフィス」を率いるグレッグ・ケリーも、日本に到着した際に逮捕されていた。ケリーの逮捕には、日産が検察に情報提供するなど直接的に関わった形跡がある。
日産本社は戦場のような様相を呈し、各所に衝撃が広がった。そうした中、西川が記者会見を開いた。西川は、ゴーンを攻撃し、検察の告発内容を繰り返し強調した。西川は事情を熟知し、ゴーンに不正があったと決めつけていた。
その後、世界中のコミュニケーターや弁護士たちによって、日々情報がリークされていく。ゴーンへの激しいバッシング・キャンペーンが繰り広げられていった。
ゴーンは、東京の北東部、小菅にある巨大な拘置所に送られた。ここではフランスで基本的に禁じられている身体検査が行われ、ヒューマン・ライツ・ウォッチも問題視している。ゴーンは、ここで130日間、先の見えない日々を過ごすことになる。
説明もなく、弁護士を呼ぶことも家族に連絡を取ることもできなかったゴーンは放心状態となった。最初の面会者となった駐日フランス大使から西川の記者会見の要約が説明される。そこで初めて日産が告発者だったと知ることになる。
拘置所の環境は劣悪だった。単独室は寒く食事もひどい。冬だとシャワーは週2回のみ。家族の手紙を直接受け取れず、面会に来た大使らが代読した。抑圧的な措置は、自分が人間以下であると感じさせるために行われていたと知ってショックだった。「自殺に追いやるような勾留環境だ」とゴーンは語る。
勾留中のゴーンは、東京地検の検察官の取り調べを受けることが日常となった。毎日平均で4~6時間の取り調べが続く。ゴーンは、元東京地検特捜部長の大鶴基成を弁護士にする。保釈してほしいなら検察に協力するよう要請してくる大鶴を、ゴーンは次第に信用できなくなっていった。
取り調べが続く中、西川はゴーンが強欲な独裁者であるかのようなイメージを世界中に広め、バッシングを強めていった。しびれを切らしたゴーンは、弘中惇一郎と高野隆を中心とする弁護士の「ドリームチーム」と行動をともにすることにした。
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