統計学は「複雑な式や計算が必要なもの」と思われるかもしれないが、多くのビジネスパーソンが仕事で使うかぎりにおいては、簡単な四則演算、つまり「足す、引く、かける、割る」だけでほとんどのことができてしまう。たとえば誰もが小学校で習う「平均」もその1つだ。
「日本の国家予算は107兆円」など、世の中には思わず思考停止になるくらいの大きな数字が溢れている。そこで、この数字を日本の人口で割って「1人当たりの平均値」を出してみよう。この計算を「@変換」と呼ぶ。
日本の人口はおよそ1億2000万人なので、「107兆円÷1億2000万人≒89万円」となる。
社会保障費やインフラの整備費、防衛費など、私たちが安心して快適に暮らすためのコストとして、1人当たり年間約90万円が使われているということだ。それを多いと感じるかはそれぞれだろうが、@変換によって、莫大な金額がそれなりにイメージできる数字に変わったのではないだろうか。
大きな数字を見たらこうして「自分事化」するクセをつけよう。ある会社の売上を「社員1人当たり」という単位で@変換すれば、その会社の生産性を大体推測できる。
また@変換は、小売業界でよく使われる「1坪当たり」「1㎡当たり」といった単位にも見られる。
平均値は、サンプルが少なかったり数字に大きな偏り(バラツキ)があったりすると意味をなさない。後者の代表的な例が年収である。欧米に比べれば格差が小さいと言われる日本でも、少数ながら非常に高収入のサンプルが含まれるのだ。そこで平均値を取ると、実態より引き上げられた数字が出てしまう。こうした場合に役立つのが「中央値」だ。
国税庁の「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の30代前半の男性の平均年収は458万円である。これを中央値で見てみると、330万円という数字が出てくる。これは、日本人の30代前半の男性を年収順に並べたとき、ちょうど真ん中にいる人の年収がこの額だということを意味する。多くの人には、この数字のほうが実感に近いだろう。
ざっくり全体の大きな傾向をつかむには@変換を使って平均を見る。その結果に違和感を抱いたら中央値をチェックする。そのように区別してみよう。
次のテーマは確率である。ビジネスで新しいプランに投資しようとする場合、ただのギャンブルではなく、しっかり確率に基づいた計算をしないといけない。
たとえば、あるキャンペーンのプランAの成功確率を75%、失敗の確率を25%と想定する。そして、成功した場合の売上が1000万円増、失敗の場合は500万円増を見込める場合、キャンペーンの売上押し上げ効果を計算すると次のようになる。
1000万円×75%+500万円×25%=875万円
これを、プランAの「期待値」という。この期待値を用いて、費用に見合うものになっているか、あるいはプランBと比較してどちらが効果があるか、といったことを検討できる。
もちろん実際のビジネスでは、これほど単純に切り分けられないことが普通だ。それでも、具体的な確率と数字で「議論のベース」を作れば、感覚や好みだけに頼ることなく議論を進められるだろう。
期待値の考え方を応用して、ビジネスのシナリオを作ってみよう。
過去の同様の施策から、プランXの成功確率を割り出してみる。それが成功したとして、さらにプッシュした場合と何もしなかった場合でどれくらい目標の達成度合いが変わるのか。同時に、失敗の確率がどのくらいかも考える。そのときとる対策によってどれくらいリカバリー率が変わるのか。それらについて、確率と期待値を用いて検証してみよう。数値は仮のものでよい。
楽観と悲観の2つのシナリオがある時、より重要なのは「悲観シナリオ」である。
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