高度成長期において、会社員は安定した身分で幸せの象徴とされた。会社と社員との間に共通してあったのが「今よりもいい暮らしをしたい」という願いだ。
当時の日本企業の繁栄は、社員との心理的契約によって支えられていた。終身雇用に代表される人事制度と、社員の「会社のため」という組織へのコミットメントがかけ合わされた結果、「働きがい」という共通の目標が生まれ、心理的契約が成立したのだ。
こうした会社と社員との関係を一変させたのが、バブル経済の崩壊である。会社は、文化も習慣も成り立ちも違うアメリカ型経営を導入し、成果主義とリストラでコストを削減した。これは、会社からの心理的契約の一方的な放棄に等しい。こうして雇用のパラダイム・シフトが起きたのである。
そして今、新型コロナウイルス感染症を口実に、非正規雇用者を雇い止めし、正社員の希望退職の年齢を下げ、募集人数を拡大させている。黒字リストラが広がり、45歳定年制もにわかに現実味をおびてきた。
まさに「会社員崩壊」の瀬戸際である。にもかかわらず、能力主義社会を勝ち抜いてきたエリート会社員の多くが、このパラダイム・シフトから目を背けている。
多くの会社員の足元が崩れ始めているなか、50歳前後のミドルはどうしたらいいのか。ポイントは半径3メートル世界における人とのつながりだ。
半径3メートル世界とは何か。これは、健康社会学者アーロン・アントノフスキー氏が定義した「生活世界 one’s internal and external environments」という概念を、著者なりに言語化したものだ。国家、社会、会社といった大きな環境ではなく、個人を取り囲む小さな環境を指している。家族との関わり、職場における人と人との温もりのある関わり、地域社会で共に暮らす人々とのつながりを含んでいる。半径3メートルの人々と良好な関係を構築できれば、大きな壁にぶつかっても、それを乗り越えやすくなる。私たちにはそのようなパワーが秘められているのだ。
半径3メートル世界で、著者がすすめるのは「ゆるいつながり」である。ビジネスの世界では「弱いつながり weak ties」の有効性が知られているが、それとは違うものだ。
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