マーケティングは、人生と社会を変えられる現実的なツールである。その本質は「必要な価値を、必要な人に届け、必要な変化を起こす仕組みづくり」だ。
たとえば、100人の組織で変革を起こしたいときはどうすべきか。この場合、大多数の80人は、変化の必要性を頭で理解しながらも、変化の大変さを想像して実行に移せない。リーダーが変革を説くほど反発するだろう。
ここで、真にマーケティング思考を持つリーダーなら、全員ではなく、自ら進んで変化に協力する数人とだけつながる。このメンバーだけで素早く行動をし始めると、協力者が次第に増えていくだろう。マーケティングの真髄は、このように、小さな波を大きくしていきながら個人と社会の変化をリードする仕組みづくりである。
本書では、世界共通の目標となったSDGsに焦点を当て、「変化加速技術としてのマーケティング」を解説していく。本要約では17の目標とその解決策のうち、3つのエッセンスを紹介する。
2007年に著者が始めた「世界を良くするビジネスプロジェクト(Business for the Better World)」は、常識はずれのプロジェクトだった。月収1万円以下で働く障がい者の共同作業所を巡るバスツアーを企画し、100万円の参加費を請求したのである。
もともと、この見学ツアーは無料だった。それが当たり前だったし、障がい者への理解を深めてもらい、寄付などの支援をしてほしいという期待が含まれていたのだろう。
しかし、これでは「与えるものvs.与えられるもの」という主従関係が固定化してしまう。そこで著者は、このツアーを「新規事業開発のための研修プログラム」にすることを思いついた。共同作業所ではどんな仕事をしているのか。障がいとはどんなもので、得意なことや苦手なことは何か。どう教えると技術を習得しやすいか――。こうしたことを、企業の幹部社員たちが障がい者やスタッフから教えてもらうプログラムである。
そうすれば、企業幹部は「施す側」から「学ぶ側」に、障がい者は「施される側」から「教える側」に変わり、強者と弱者の関係性が逆転する。まさに、世界を変える発想だといえた。
ところが、プログラムにはさっぱり人が集まらず、著者のもとには「障がい者を食いものにするのか」と批判が殺到した。
価値ある新しいことをしようとすると、必ず潰そうとする圧力がかかる。この圧力から逃れる方法は、理解しない人を理解させるのではなく、理解しあえる少人数と集うことだ。実際、著者がほんの数人の企業幹部に事情を説明したところ、共感する仲間が徐々に集まった。
このプログラムのポイントは「大胆な価格をつけたこと」にある。0円の提案には「タダ」を求める人たちが集まってくる一方で、100万円の提案にはお金以上の何かを求める人たちが集まる。あえて高い価格をつけたから、ハイクラスの人たちを集めることができたのだ。
あなたは、「たった100円で救える命がある」などと謳った、寄付を募るダイレクトメールを受け取ったことはないだろうか。実は、寄付金募集はマーケティングの中で最も難易度が高く、プロの技術がふんだんに使われている分野だ。
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