私たちの身の回りは、ありきたりの常識や「情報化」「グローバル化」といった紋切り型の決まり文句であふれている。こうした発想を見聞きした際、深く考えることもせずに「そんなものか」と反射的に受け取ってしまうことも多い。その結果、自分の頭で考えなくなり、ものごとの複数の側面に目を向けるのを怠ってしまうかもしれない。
著者は、ステレオタイプ、「常識」にとらわれ、「他の人と同じ」発想をする「単眼思考」に対し、「知的複眼思考法」を提案する。これは、「複数の視点を自由に行き来することで、ひとつの視点にとらわれない相対化の思考法」のことだ。自分なりの考えをもち、自由に考える市民のための思考法でもある。
考えるプロセスを省いてでも「正解」を見つけようとするのではなく、知識と思考を結びつける方法が重要となる。知識の断片はいつか消えてしまう。本書は、「考える」方法のさまざまなパターンを紹介し、自分の頭で考える力を身につける手助けをする。
本をはじめとする紙に書かれた活字メディアでは、受け手のペースでメッセージを追っていくことができる。時間のかけかたが自由であり、立ち止まってじっくり考える余裕を与えてくれる。つまり読書は、複眼思考を身につけるうえで格好のトレーニングの場となる。著者は思考力を鍛える読書の方法を次のように紹介している。
まず大切なのは著者と対等の立場に立って読むことだ。どんなに偉い著者でも人間であり、間違えることもあれば論理の飛躍もある。目の前の本を不動の完成品としてではなく、さまざまな可能性のうちのひとつとしてとらえたほうがよい。
書き手の言い分を鵜呑みにせず、批判的に考えながら読書するための重要なチェックポイントとして著者は以下の4点を挙げている。
(1)著者を簡単には信用しないこと
(2)著者のねらいをつかむこと
(3)論理を丹念に追うこと、根拠を疑うこと
(4)著者の前提を探り出し、疑うこと
自分自身で考える力をつけるためには、批判的に書くことも重要である。考えるという行為は、考えを表現してはじめて意味を持つからだ。
まず大切なのは、文と文のつながりに気をつけることである。つながりが論理的かどうかは、「だから」「しかし」といった「接続のことば」を正しく使えているかに着目するとよい。
論理を明確にするためには、「結論を先に述べ、それから、その理由を説明する」「判断の根拠を示す」といったコツがある。
以上の点を意識して論理的に文章を書くことは複眼思考法の基礎トレーニングとなるが、「一人ディベート」も考え方を養うのに有用だ。
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