社会契約論は、次の特徴をもった思想である。
第一に、社会の起源を問うことだ。「私たちが暮らすこの社会はどこから来て、どんなふうに生まれたのか」を解き明かす。いまある社会がこのままでいいのかを考える際の一つの基準となる。
第二に、社会が作られ維持される、最低限必要なルールを問うことだ。ルールがあるから社会となるが、そのルールは自然と生まれたものではなく、「人工物」であると考える。「人間社会が維持されるための最低限のルール」とともに、「そのルールが正しいかどうか判断する際、人間自身が持つべき基準や手続きはどうあるべきか」を考える。
第三に、社会は誰がどうやって作り、何によって維持されるかを問うことだ。誰がどう作れば、人間だけで「持続性と凝集力がある社会ができるのか」を考える。
こうした問いに対し社会契約論は、「約束だけが社会を作る」という答えを与える。社会が形成される前は、人は自由で独立しており、ばらばらの状態(自然状態)だ。この人たちが約束を交わし、「他者との継続的な絆が結ばれる社会的状態」へと移行する。
著者は社会契約論について、国家と個人の対立構図を前提とするのではなく、「約束の思想」として読む。「何もなかったところに、人々が集まり、約束する」秩序形成の瞬間に注目する。この読み方が重要なのは、社会契約論の「一般性」という特徴と関係するからだ。
秩序には「市場の秩序」と「約束の秩序」がある。市場の秩序とは、市場の商品を通じて作られる。この秩序の擁護者は、「商品の背後に当事者の誰もが得する幸福な関係を見出す」。一方で、商品の売り手や買い手が誰であるのか問わないことで、市場には「不平等や不正を隠す機能」もある。
約束の秩序は、「相互利益を実現する秩序が自然に生まれるとは考えない」。秩序の条件をことばや条項、人々が目に見える形にする。現にある人間たちの果てしない違いや多様性、欲望などの現実のうえに、「一般性」の次元を立てようとする。これによって人は、何が正しく、何が間違っているかを判断できるのだ。
一般性の次元に立つことで、社会秩序が最低限守るべき事柄が明示される。ここにおいて私たちは、社会全体と、そこで結ばれる関係の基本要素に対して、責任を持たなくてはならない。
本書はまさにこの「約束」と「一般性」をテーマに、社会契約論を考察する。
『リヴァイアサン』を代表的著作とするトマス・ホッブズは、どのように社会契約論を考えていたのだろうか。
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