ベンチャーキャピタルとは、数多くのスタートアップ企業へ投資し、ほんの一握りの投資先の成功によって莫大な利益を獲得することを目指す投資スタイルである。一握りの成功を掴めれば、他の多くの企業の低リターンや失敗はやむを得ないと考える。
この投資スタイルについて、縦軸に企業数、横軸に投資先の利益分布のグラフで描くと、縦軸に近いところに山ができ、右側(リターンがプラスの方向)に長い裾野を形成する、「ロングテール」の形となる。このような投資スタイルは、アメリカで生まれ、発展し、イノベーションの強力な牽引役となってきた。
植民地時代のアメリカの捕鯨業と現代のベンチャーキャピタルを比較すると、驚くほど似ていることがわかる。ある研究では、捕鯨航海の約3分の1が赤字であり、利益率が100%を超えて大成功を収めたものは2%弱であった。30%程度のベンチャーキャピタル・ファンドは0以下のIRR(投資の収益率を測る指標)であり、ごく一握りの成功が他をはるかにしのぐという、現代のベンチャーキャピタルの極端にゆがんだ損益分布と同じ特徴が見てとれる。
捕鯨スタートアップのファイナンスは、現代のベンチャーキャピタルと同様に、リスク資本の仲介を核として行われた。投資家が、有限責任組合員(リミテッド・パートナー)として、有期で資金をファンドに拠出し、それを元手として、ベンチャーキャピタルがポートフォリオ企業に投資するというモデルだ。
現代の出資者は、投資先企業の詳細な実態調査(デューデリジェンス)を行えるインフラがなく、新技術に関する専門知識を持ち合わせていないがためにさまざまな障害に遭う。それと同様に、捕鯨業に出資する裕福な個人投資家も、捕鯨に関する専門知識を持たず、船長や乗組員を手配する手段もなかったため、捕鯨業に直接投資するインセンティブがほとんどなかった。したがって、資金をエージェントに預ける形を通して、捕鯨航海の船主持ち分が少人数の出資者に所有される、共同事業組合(パートナーシップ)の形態が採られたのだ。
このように、持ち分が限定された組織モデルは、船主、エージェント、船長、乗組員のインセンティブが一致しやすく、モラルハザードや利益相反を防ぐという利点があった。
以上の要因がそれぞれ補完し合うことで、アメリカの捕鯨業はグローバル市場を席巻することとなる。これは、現代のアメリカのベンチャーキャピタルが起業家集団を支えているのと同じである。
乱獲のせいでクジラが激減し、外国との競争も激化して、19世紀末になると捕鯨業が衰退したため、出資者は他の産業に資金を分散させるようになった。こうして綿織物業が、ハイテク分野のイノベーションに資金提供が行われた最初の舞台となった。
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