逆境を楽しむ力

心の琴線にアプローチする 岩出式「人を動かす心理術」の極意
未読
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心の琴線にアプローチする 岩出式「人を動かす心理術」の極意
未読
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出版社
出版日
2022年05月23日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

スポーツの迫力やスピード感につい目を奪われ、その裏にはどれほどの努力があるのだろうと思いを馳せる――。そんな経験をしたことがある方は多いだろう。

本書を読むと、監督と選手の努力の一端をのぞき見ることができる。著者、岩出雅之氏は、帝京大学ラグビー部の監督として、チームを全国大会9連覇に導いた人物だ。連覇記録は2018年度にストップしたが、2021年度には王者に返り咲いた。

岩出氏によると、チームを「常勝集団」に育て上げるためにあらゆる改革を行ってきたという。その一つがチームの「逆ピラミッド化」だ。具体的には、入学したばかりの1年生ではなく、最上級生である4年生が部内の雑用を担当することにした。狙いは、心理的安全性が確保されたチームをつくることだ。

「雑用は下級生が担当する」のように、現代ではもはや受け入れられにくくなっている慣習は多いものだ。とはいえ、変革は決して容易ではない。だが著者は、常識にしばられず、データや研究結果、経験をもとに仕組みや考え方をどんどんアップデートしている。これこそが、チームを「常勝集団」へと育て上げた大きな要因だろう。

意外かもしれないが、「逆ピラミッド化」が作り上げた心理的安全性の高いチームはある問題をはらんでいたそうだ。その問題は何で、著者はどのように解決したのか。スポーツ教育分野に限らず、チームを率いていく立場にある人や、Z世代のモチベーション・マネジメントに関心のある方に、ぜひお読みいただきたい内容である。

著者

岩出雅之(いわで まさゆき)
帝京大学スポーツ局長、スポーツ医科学センター教授。1958年和歌山県新宮市生まれ。1976年和歌山県立新宮高校卒業、1980年日本体育大学卒業。大学時代、ラグビー部でフランカーとして活躍し、1978年度全国大学ラグビーフットボール選手権大会で優勝の原動力になり、翌年度、主将を務めた。教員となり、滋賀県教育委員会、公立中学、高校に勤務。滋賀県立八幡工業高校では、ラグビー部監督として同校を7年連続で花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)出場に導いた。高校日本代表コーチ、同監督を歴任後、1996年より帝京大学ラグビー部監督。2009年度全国大学ラグビーフットボール選手権大会で創部40年目に初優勝。以来、2017年度まで前人未到の9連覇を記録。2021年度に同大会で優勝しV10を達成後、26年続けたラグビー部監督を勇退。現在は、帝京大学スポーツ局長として、同大学のスポーツ関係を総括する。著書に『負けない作法』(共著、集英社)、『常勝集団のプリンシプル』(日経BP)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    帝京大学ラグビー部では、チームの「逆ピラミッド化」に取り組んだ。目的は、部員の心理的安全性を確保することだ。
  • 要点
    2
    Z世代の性質にフィットするよう、指導方法もアップデートした。部員の内発的動機を刺激することと、間接的コミュニケーションをとることを意識した。
  • 要点
    3
    集中力を維持するには、「スキルレベル」と「チャレンジレベル」のバランスに加え、「可変性」がポイントとなる。

要約

「常勝集団」はなぜ負けたのか

連覇中に入った小さなひび

帝京大学ラグビー部は、2009~2017年度のラグビー大学選手権で9連覇を達成し、「常勝集団」として知られてきた。2018年度には連覇が途切れたが、2021年度に4年ぶりの優勝を果たす。優勝から遠ざかった3年間で、監督を務める著者は自身の指導方法や組織のあり方、学生との接し方やモチベーションの高め方などを根本的に見直した。

連覇はチームに勢いと自信を与えてくれたが、一方で欠点や不適合を覆い隠しもした。連覇中に入った小さなひびが、いつの間にか大きくなっていたのだ。

連覇が途切れた要因はいくつかあった。そのうちの一つは、部内の雰囲気がゆるんでしまっていたことだろう。著者は監督就任以後、組織の「逆ピラミッド化」に取り組んできた。体育会特有のピラミッド構造を逆転させ、心理的安全性を確保することを目指す取り組みだ。この取り組みを通じて心理的安全性を確保し、メンバーのパフォーマンスを上げたかった。

その一環として、従来1年生の仕事だった部内の雑用を、4年生に担当してもらうことにした。入学したばかりの1年生は、生活環境が変わったばかりで、心理的余裕がないものだ。そんな1年生の負担を減らして、勉強とラグビーに打ち込めるようにしたかった。

心理的安全性の落とし穴にはまる
cristianl/gettyimages

「逆ピラミッド化」には2つの誤算があった。1つ目の誤算は、チームが「仲良しグループ」になってしまったことだ。

チームが最大のパフォーマンスを発揮するには心理的安全性の確保が欠かせないが、そこに「野心的目標」がなければ居心地はいいけれど難しいことに挑戦しない状況に陥ってしまう。帝京大学ラグビー部は、「心理的安全性の落とし穴」にはまってしまい、メンバーの成長意欲が下がってしまっていた。

チームが仲良しグループ化すると、ぬるま湯的な空気感となり、高い目標を達成するのは難しくなる。理想は、心理的安全性と挑戦・責任のレベルがともに高い状態だ。

部員たちの責任感が薄れてしまった

もう一つの誤算は、部員たちの責任感が薄れてしまったことだ。雑用担当から外れた1・2年生は、部の運営に対する当事者意識をもちにくくなる。進級して4年生になっても、やや頼りない感じがした。

4年生の役割は、チームをまとめる精神的支柱になることだ。だが、雑用を免除された世代が3・4年生になったとき、下級生から尊敬される存在になったかというと、そうとは言えなかった。その状況を打開しようと著者は以前のようにトップダウンで組織を引っ張ろうとしたが、うまくはいかなかった。

トップがメンバーを動かそうとする「センターコントロール型組織」では、メンバーのモチベーションや自律性は高まらず、指示待ち人間を増やしてしまう。

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要約公開日 2022.09.17
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