帝京大学ラグビー部は、2009~2017年度のラグビー大学選手権で9連覇を達成し、「常勝集団」として知られてきた。2018年度には連覇が途切れたが、2021年度に4年ぶりの優勝を果たす。優勝から遠ざかった3年間で、監督を務める著者は自身の指導方法や組織のあり方、学生との接し方やモチベーションの高め方などを根本的に見直した。
連覇はチームに勢いと自信を与えてくれたが、一方で欠点や不適合を覆い隠しもした。連覇中に入った小さなひびが、いつの間にか大きくなっていたのだ。
連覇が途切れた要因はいくつかあった。そのうちの一つは、部内の雰囲気がゆるんでしまっていたことだろう。著者は監督就任以後、組織の「逆ピラミッド化」に取り組んできた。体育会特有のピラミッド構造を逆転させ、心理的安全性を確保することを目指す取り組みだ。この取り組みを通じて心理的安全性を確保し、メンバーのパフォーマンスを上げたかった。
その一環として、従来1年生の仕事だった部内の雑用を、4年生に担当してもらうことにした。入学したばかりの1年生は、生活環境が変わったばかりで、心理的余裕がないものだ。そんな1年生の負担を減らして、勉強とラグビーに打ち込めるようにしたかった。
「逆ピラミッド化」には2つの誤算があった。1つ目の誤算は、チームが「仲良しグループ」になってしまったことだ。
チームが最大のパフォーマンスを発揮するには心理的安全性の確保が欠かせないが、そこに「野心的目標」がなければ居心地はいいけれど難しいことに挑戦しない状況に陥ってしまう。帝京大学ラグビー部は、「心理的安全性の落とし穴」にはまってしまい、メンバーの成長意欲が下がってしまっていた。
チームが仲良しグループ化すると、ぬるま湯的な空気感となり、高い目標を達成するのは難しくなる。理想は、心理的安全性と挑戦・責任のレベルがともに高い状態だ。
もう一つの誤算は、部員たちの責任感が薄れてしまったことだ。雑用担当から外れた1・2年生は、部の運営に対する当事者意識をもちにくくなる。進級して4年生になっても、やや頼りない感じがした。
4年生の役割は、チームをまとめる精神的支柱になることだ。だが、雑用を免除された世代が3・4年生になったとき、下級生から尊敬される存在になったかというと、そうとは言えなかった。その状況を打開しようと著者は以前のようにトップダウンで組織を引っ張ろうとしたが、うまくはいかなかった。
トップがメンバーを動かそうとする「センターコントロール型組織」では、メンバーのモチベーションや自律性は高まらず、指示待ち人間を増やしてしまう。
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