本書は、「人的ネットワーク」を「1対1の人のつながり」と定義し、その意義や活用法について論じていく。社会環境や変化に伴い、人的ネットワークの重要性は増している。テクノロジー駆動型で起こっている社会環境の変化は、ビジネス環境にも大きな変化をもたらし、個人が求められるスキルや働き方、キャリア形成にも大きな影響を与えている。こうした状況で、組織は社員に何を求め、そこに人的ネットワークがどう関わってくるのか。
いわゆるVUCAの時代において、企業は自社が持つ能力だけで生き残るのが難しくなった。新価値創造を続けるためには、他社と協創し、イノベーションを起こすことが不可欠だ。イノベーションは既存の知と別の既存の知が組み合わさることで生まれる。だから、社員が多様な知に出会うための取り組みが重視され、人材を多様化することで知の多様化を生みだそうと、ダイバーシティ&インクルージョンが推進されている。社員には「個人の中の多様性」が求められ、業界や業種、企業や組織にとらわれない多様な経験を積んだ人が必要とされるようになった。
そこで重要になるのが、社会学者グラノヴェターが示した「ウィーク・タイ(弱いつながり)」という理論だ。似たような価値観を持っている人とは強いつながりを育むことができる一方、新しい何かは生み出しづらい。自分が知り得ない多様性に富んだ有益な情報をもたらしてくれる可能性があるのは、異なる価値観や生活スタイルを持つ人だ。そうした人たちとの関係は「弱いつながり」であることが多い。
終身雇用は終わりを迎えつつあり、ジョブ型雇用を取り入れる企業も増えてきている。自分のキャリアを自分でマネジメントする必要が出ると、個々人としての人とのつながりの重要性は高まることになる。「たまたま人的ネットワークに恵まれている」という状況を良しとしてはいけない。重要なのは、意図的に人的ネットワークを構築できる力を身につけることだ。
本書の基となった研究で行ったインタビューでは、人的ネットワークの恩恵はビジネスにとどまらず、生きがいや人間的成長など、さまざまな面に影響を与えることがわかった。その構築に深く関係しているのは、「志」と「自身の能力開発」だ。「志」とは自らが進みたいと思う方向性、「能力開発」とはそれぞれが持つ能力を発見し高めることである。
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