何でも話してもらえる人に共通する聞き方の秘訣は、受容・共感・自己一致の3つである。受容とは、「相手の価値観や考え方を無条件に受け入れること」、共感とは、「相手の感情を想像して理解すること」、そして自己一致とは、「自分が自分のあるがままでいること」「相手が『自分はこれでいい』と思えるようになること」を指す。会話が苦手と感じている人でも、これらをベースに聞き方を変えれば、相手を動かしたり、心を開かせたり、誰かの悩みをすっきりさせたりすることがある。
まず実践したいのは、「あまり話さないこと」だ。それだけで何か変化が起こる場合もある。
悲しみや怒りなどを吐き出すことですっきりする、「カタルシス効果」は、普段の仕事や人間関係で話を聞く側に回るときにも活かすことができる。誰かとの会話でカタルシスを感じてもらえると、その相手との信頼関係を築きやすくなる。
しかし、親しくもない相手にいきなり何でも打ち明けてもらうのは難しい。そこで、相手が何を言っても、自分の価値観とは関係なく丸ごと受け止め、理解する。そうして「発言の心理的ハードルを下げ、会話の心理的安全性を高める」ことが、聞く技術である。
すぐに使える便利な聞き方として、「そうだよね」「そっか」といった受容の一言を返すことが挙げられる。どこに原因があるかとか、自分ならこうするといった話をする前に、「そうだよね」と受容する。自分の解釈や感情を挟まず素直に受け入れることは、意識しないと難しい。それでも、まず受容することで、言い合いになることもなく、本音を言ってもらえるようになる。
「私たちがうまく聞けないのは、聞くより話すのが好きだから」だ。
人間には本能的に、「知ってもらいたい」「聞いてもらいたい」という「所属欲求」がある。ハーバード大学の社会的認知・情動神経科学研究所の調査では、「自分語りは快楽だ」と発表された。「自分自身のことを話すとき、人の脳は快楽に関する神経領域が活発化する」という。みんな何かを話したい。そういうときに「聞ける人」であることは貴重なことなのだ。
「所属欲求は、人間同士だからこそ満たされる」。言葉が通じないペットや、反応のないぬいぐるみが相手では、「自分の存在を認めてもらっている」という所属欲求を満たせない。自己受容には他者からの受容が必要なのだ。
一方で、聞く側がいかに疲れないようにするかも重要だ。話に入り込み過ぎると、相手の問題が自分の問題のように思えてきて、心にダメージを受けてしまう。聞き疲れしない技術も、聞く技術の1つなのだ。
話を聞けない人のタイプにはさまざまある。
たとえば、「相手の話に失敗したことやうまくいかないこと、迷っていることなどが出てくると、ついアドバイスしたくなる」のが、「先生タイプ」だ。いいアドバイスをしようとつねに考えているため、相手の話に耳を傾けられなくなる。ほかにも、相手の話の内容が自分の価値観や判断基準と異なっていると口を挟んでしまう「審判タイプ」や、聞かれてもいないことを相手の話を折ってまで説明、確認しようとする「解説者タイプ」、相手によって聞き方が変わる「カメレオンタイプ」などがある。
また、聞けない人の中には「真面目な人」もいる。相手の話をきちんと受け止めようとするあまり、逆に聞けなくなってしまう。その原因は、言葉や行動に無意識に影響を与える心のクセ、「メンタルノイズ」だ。
このノイズにもいろいろある。些細なことにまで完璧を求めるがゆえに堅苦しくなってしまう「完璧主義ノイズ」や、自分自身同様に会話も急かす「タイムイズマネーノイズ」、自分だけでなく相手にもきちんとすることを求める「ちゃんとしなきゃノイズ」などだ。
これらのノイズは真面目な人に強く刻まれている傾向があり、相手を話しづらくさせてしまう。
本書で紹介している聞く技術は、次の3つである。①安心して話してもらえる信頼関係をつくる聞き方(受容・共感)、②本音を話してもらう聞き方(自己一致)、③聞き疲れしない方法だ。
一つめの「安心して話してもらえる信頼関係」のためには、話し手と聞き手の距離感が大切である。相手が自分の経験を話したとき、寄り添うつもりでつい「わかる」と返してしまいがちだが、他人のことはそう簡単にわかるはずがない。
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