本書の狙いは、様々な分野の専門家との対談をもとにリベラルアーツ(教養)を理解し、世界を捉え直すことだ。現代において教養が必要とされる理由は何か。著者の一人である深井氏は次のように述べる。
現代は価値観の転換のスピードが速く、様々な価値観が同時に併存している時代だ。安定した会社に入り、結婚して子どもを産むといった既存のレールに乗れば幸せになれた時代とは違い、誰もが迷いながら生きている。しかし、「自分と社会の関係性がどうあるべきか」という根本的な問いに対する答えがクリアになれば、おのずと進む方向が決まっていく。そのために必要とされるのがリベラルアーツである。
リベラルアーツとは、知識やスキルのことではなく、ものごとを「どこから見るか」という観点を指す。観点は多ければ多いほうがいい。より多くの視点を得られれば、時代の変化にも、自分自身に対する反応にも振り回されなくなる。このような思考法が、まさに現代人に求められているのだ。視点が増えれば、人生のオプションが増え、決断の迷いが減る。そうすれば現代の混乱から抜け出せるようになるだろう。
深井氏は、複数の視点を獲得することで、「思考OS」を定期的にアップデートしていかなければならないと主張する。思考OSとは、時代ごとに社会のベースとなる考え方のことだ。
紀元前6世紀から4世紀ごろ、ギリシャのソクラテス、インドのブッダ、中国の孔子など、世界中で同じタイミングで哲学者が大量発生した。「生きるとは何か」「人間とは何か」を考えることで、思考OSが論理的・理性的になっていった。次のキリスト教OSでは、人びとの考えや行動のすべてのベースが信仰になった。宗教改革やルネサンスを経て、フランス革命によって「人権」の概念が憲法に取り入れられるようになった。ところが、二度の世界大戦に見られるように、「国家のために人民が頑張るOS」の時代に突入する。
このような大転換は、今までは数百年に一度の頻度でしか起きなかった。しかし現代では、インターネットという情報伝達技術の革新によって変化のスピードが加速し、数十年、もしくは十年に一度の頻度でOSの転換期が訪れている。
人間はものごとを相対的にしか認識できない。そのため、現代を真に理解するためには、歴史を学び、自分とは異質なものの比較によって新しい視点を得なければならない。
文化人類学をテーマとした対談のゲストは九州大学大学院人間環境学研究院准教授の飯嶋秀治氏である。飯嶋氏は文化人類学について、日本人の視点ではなく現地の視点からものごとを見て自文化との違いを見いだす学問だと説明する。
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