「あの高校が閉校になる」と聞いたのは、中学3年の夏だった。家の近所にある馴染み深い学校だ。
学力の水準が自分にぴったりで、野球をする環境も整っていたので、その高校への進学を決めた。入学するのは自分たちの代が最後。後輩は入ってこないため、野球部に9人以上の同級生が集まらないと、単独でチームを結成できない可能性もある。だが無事に選手10人とマネージャー2人が集まった。
先輩が引退してしまうと、部員は一気に少なくなった。練習の準備や後片付けも大変だ。「後輩がいたらな」と思うこともあったが、仕方ない。ぼくはキャプテンになり、「この人数で最後までやりきろう!」と決意した。10人でも勝てることを証明したかった。
3年生の春の大会が終わったころは、新型コロナの影響もあり、練習試合すら思うようにできなくなった。選手が10人しかいないため、実戦練習もままならない。そんなぼくたちのために、歴代のOBが練習相手になってくれた。
先輩たちに感謝の気持ちを伝えたいと考えたぼくたちは、「校歌を必ず歌います」と約束した。夏の試合に勝って、先輩たちといっしょに校歌を歌うのだ。
初戦の相手は県内一の進学校だ。前半に得点を重ねたぼくたちが優位となり、6対4の2点リードで9回表を迎えた。しかし相手も粘りを見せて、ツーアウト2、3塁で1打同点のピンチ。相手の4番バッターとの対決となった。平凡な内野フライで仕留めたと思ったが、ファーストがまさかの落球。2人の走者が戻って、同点に追いつかれてしまった。
ピッチャーが1人しかいない僕たちは、
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