1870年にウィーン郊外でユダヤ人の家系に生まれたアルフレッド・アドラーは、病弱な幼少期に父親の「勇気づけ」によって身体の障害、劣等感と健全に向き合う術を見つける。その後精神科医となり、独自の心理学の道を切り開いた。アドラーは劣等感や優越感への意志を重視し、自身の心理学を「個人心理学」と称した。
アドラーの打ち立てた理論は、5つの要素にまとめられる。1つめは、その人の生き方を決めるのは環境や過去ではなく、自分の意思だという「自己決定論」だ。運命の主人公は自分だ。2つめの要素は、人間は未来の目的のために行動するという「目的論」という考えだ。これは、人間の行動や感情には「原因」があるとする「原因論」とは真逆の考え方である。3つめは、人は心と体、理性と感情のように部分に分けることはできないと考える「全体論」だ。人は必ず全体でとらえなければならない。4つめは、人は世の中の出来事を自分の考え方を通して理解し、意味づけ、行動すると考える「認知論」だ。人は自分だけの心のメガネを通して世界を見ているのだ。5つめは、人は「特定の誰か」を想定して行動していると考える「対人関係論」だ。人の行動には必ず「相手役」がいて、その存在が行動に影響を与えるのである。
アドラー心理学では、他者の行動から自分が影響を受けると同時に、自分の行動も相手に影響を与えると考える。ならば、人間関係の悩みは、自分の行動を変えることで解決することができる。人間関係を築く4つの要素として「共感」「信頼」「尊敬」「協力」の4つの要素が挙げられる。行動のベースになるのは、相手への「共感」だ。共感の姿勢は相手に肯定感をもたらし、精神的な距離を縮めることができる。そのためには、相手の行動や善意をまず「信頼」することだ。相手を信頼して良いところを探してみると、「尊敬」し合う関係性につながる。こうした相互尊敬のある組織は、目的を共有し課題の解決に取り組む「協力」が多く生まれる。
アドラー心理学でいう「勇気づけ」とは、困難を克服する活力を与えることだ。良い・悪いという評価的な態度をベースとする「ほめる」こととは異なり、相互を尊敬・信頼し合う平等な関係性に基づいた共感的な態度が必須だ。仲間とのつながりや絆の感覚である「共同体感覚」をお互いに持っていると、勇気づけが生まれやすくなる。
効率や生産性を重視する現代、心は疲れやすくなっている。不慣れなことの繰り返しや、個人の作業負担の増加、刺激のない日常の繰り返しなど、疲れ果てた人の元気を取り戻すには「勇気づけ」が重要だ。
勇気づけの方法は5パターンだ。1つめは相手の良かった点を伝える「ヨイ出し」だ。ダメ出しをされると人は行動をためらうようになる。ヨイ出しをすれば、相手の自主的な行動を促すことができる。
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