コロナ禍の影響で価格高騰の波が一気に押し寄せてきた。しかし、多くの企業やお店は値上げに踏み切ることができないでいる。「値上げは悪」「1円でも安く」という固定観念の呪縛から解き放たれなければ、価格上昇時代に生き残ることはできない。
理解しておくべきは、消費者は「どうでもいいものにはお金を使わないが、自分にとって意味があると思ったら、惜しみなくお金を使う」ということだ。著者はこれを「意味合い消費」と呼んでいる。
例を挙げて説明しよう。都内でレストランを経営する「ティナズダイニング」はその運営店舗で、人気漫画『ゴールデンカムイ』に出てくる「チタタプ」という料理を再現した「アイヌジビエコース」を出している。お客さんがその場で「チタタプ、チタタプ」と唱えながら肉を叩いて作るユニークなもので、値段は8580円とかなりの高額だ。
だが、客には「アルバイト代を貯めて来た」という若いカップルも来るらしい。生活必需品への出費を切り詰めて、このレストランでの食事に「予算」を「配分」したのだ。
コロナ禍により、誰もが「限りある自分たちの時間やお金を何に使うか」を深く考えるようになった。だからこそ「意味のある」ものが選ばれる。「価値をしっかり伝えれば、価格維持どころか、価格を上げても売上が落ちることはない」。
お客さんがものを買うまでには、「買いたいか、買いたくないか」と、「買えるか、買えないか」の「2つのハードル」があるが、2つ目の価格のハードルは意外と低い。
東京都板橋区主催の「ワクワク系の店づくり実践講座」に参加した惣菜屋の「おかずや」は、自慢のビーフシチューを800円で売っていた。他店と比べて高額なため、なかなか売れなかったという。それもそのはず、「ビーフシチュー 800円」としか書かれていなかったPOPは、「買いたい」という1つ目のハードルを越えられていなかったのだ。
そこで、「大きなお肉をじっくり煮込み余分な脂をとりのぞき、三日がかりで作りました、当店のおすすめです」と書き換え、その価値を伝えることにした。売上は一気に例年の2倍になった。
ビジネスにおいて、主役は「価格」ではなく「価値」なのだ。
そうして「買いたい」のハードルを越えれば、あとは「買えるか、買えないか」だ。ここに関与してくるのが予算の「配分」である。買おうとしている商品・サービスが自分にとって意味のあるものと感じれば感じるほど、その商品・サービスへの配分は多くなり、「買えない」のハードルは下がることになる。
つまり、「価格」は「価値」に従うのである。商品の価値を伝えていくことに、じっくりと取り組む。「価値」あるものになれば、「価格」は消滅する。
価格を原価から決める方法は大量消費時代のやり方であり、現代にはそぐわないし、「作り手本位」「売り手本位」だ。同業他社の価格と横並びか、少し安い価格を付けようとすることも間違いである。「安くないと売れない」という古い常識に縛られている。ではどうやって「値付け」をすればよいのか。
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