質の高い意思決定をするには、どうすればいいのか。情報を集めることは大切だが、事前に何でもわかっていたら、経営者はいらない。
ビジネスは限られた情報しか得られていない段階で、いかに質の高い意思決定をするかの勝負だ。
しかし意思決定というのは決める人の考え方によって、いろいろな尺度や基準がある。「数字で割り切る」のがいつも正しいとは限らない。あまり理屈を通そうとすれば、人の気持ちがくみ取れなくなる。
ひとつのケーススタディを、東京ディズニーリゾート(TDR)の経営者になったつもりで考えてみよう。
東日本大震災の際、TDRの施設に大きな被害はなく、すぐに営業できる状態だった。しかし各地では電力の逼迫や原発事故、液状化現象など大きな被害が生じていた。
あなたならいつ、どのような形で営業再開を決断するだろうか。考慮すべき要因は、さまざまなステークホルダーへの対応、大事にすべき顧客セグメント、いつまで閉園可能かの資金繰り、従業員のパフォーマンスの維持、顧客の安全など多岐にわたる。これらについて、企業の論理と社会の論理、短期的収益と長期的収益のバランスを考える必要がある。
現実のTDRは、震災の約1カ月後に一部再開を決めた。
ビジネスにおける意思決定で絶対に欠くことができないのは「利益をどのくらい上げることができるのか」という視点だ。
限りある資金で最大のリターンを得るには「経済的分析」が役に立つ。複数の投資先候補があるとき、まず優先すべきは利益率の高さだ。しかし、投資してなお手元にお金が残っていると、それは利益を生まない「死に金」になってしまう。そのような場合は、利益率が低くなっても死に金を減らせる投資案を検討し、利益の総額が最大になる配分を考えるべきだ。
資金を調達して投資する場合は「資本コスト」を考慮に入れる必要がある。資本コストとは借入の金利や、出資に対する配当のように、お金の調達にかかる費用のことだ。これは企業の信用力で変化するので、たとえば見通しが不透明なスタートアップの場合、投資家へのリターンを上げなくてはならず、資本コストは高くなる。自由に使えるお金は銀行に預けておくより、借金返済や自社株の買い戻しなどに回して、資本コストを下げることも大切である。
ただし、単純に利益率だけを見て決断すればいいというものでもない。儲かっていても将来性の薄い事業は売却して、夢のある事業に投資するという意見もあるだろう。自社にとってベストな資産配分をきちんと考えることが大事だ
意思決定するときは、自分の期待どおりに物事が進むと考えてはいけない。競争相手の出方をきちんと念頭におきつつ、最善の選択を探る方法のひとつとしてゲーム理論がある。「互いに相手より利得を増やそうとする競争の結果を予想する手法」だ。
このうち、ビジネスの意思決定によく応用されるのが「ゲームマトリックス」である。自社とライバルの2者において、それぞれの打ち手によって現状の利益がどう変わるかを比較するためのものだ。
たとえば2つの小売店のうち、駐車場を拡張すれば利益が上がり、現状維持すれば利益が下がるとする。このとき、相手がどう考えようと駐車場を大きくするほうが有利になる。
しかしここで、両者が駐車場を大型化すると、両方ともいまの利益率より下がってしまうとしたらどうだろうか。
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