個人や企業が長期にわたって大きな成果を上げ続けるためには、世界が複雑化し、変化の速度が増し続ける状況に対処しなければならない。今を生きる私たちは、複雑で大規模な変化を、これまでより頻繁に、これまでより速いペースで、これまでより複雑な環境で実現させる必要に迫られているのだ。
そんな中、新たに「変化の科学」とでも呼ぶべき学術的成果が蓄積されつつある。この科学は「人間の性質についての研究」「現代型組織に関する学術的研究」「変革のリーダーシップに関する研究」の3つの柱から構成されている。それぞれについて簡単に解説する。
1つ目の柱は、人間の性質についての研究である。
人間には「生存チャネル」と「繫栄チャネル」と呼ぶべきメカニズムが備わっている。「生存チャネル」は、絶えず脅威に目を光らせるレーダー・システムのようなものだ。このレーダーが脅威を察知すると、脳内化学物質が放出され、エネルギーと集中力がみなぎって脅威を素早く取り除こうとする。大口顧客からのクレームに即座に対応できるのは、生存チャネルが働いたおかげだ。生存チャネルが活性化して緊張が高まった状態が長引くと、チャンスに気づいたり、冷静かつ創造的に物事を考えたりする能力が低下しやすくなる。
一方、「繁栄チャネル」は、脅威ではなく機会に目を光らせるレーダーだ。このレーダーが新たなチャンスを察知すると、情熱や興奮が高まり、イノベーションとコラボレーションにつながる。
今日の組織がスピーディーかつ賢明に変化するためには、メンバーの「生存チャネル」が過熱しないようにするとともに、「繫栄チャネル」を活性化させる必要がある。これは決して簡単なことではない。変化のスピードが増す中、人々の生存チャネルは過熱する一方だからだ。
ただし「生存チャネル」は過小であればあるほどよいわけではない。むしろ、「生存チャネル」が適切に機能していると、「繁栄チャネル」も活性化しやすいことがわかっている。「繫栄チャネル」を活性化させるためには、「生存チャネル」が過剰でも過小でもない状態をつくるのがベストなのだ。
2つ目の柱は、現代型組織に関する学術的研究だ。現代型組織が生まれたのは、規模が大きく複雑性の高い組織を築いて大量消費市場に対応するためだ。この組織はピラミッド型である。ミドルマネジャーがマネジメント・プロセスを牽引することで、高い効率性と安定性を実現している。
こうした現代型組織は変化を苦手としている。多くの規則や方針、手続き、計画が備わっていて、強い標準化志向をもっているためだ。
まずはこうした現代型組織の限界を知り、問題の原因を把握しよう。そして、組織をどう変えれば「安定性・効率性の向上」と「スピード・機敏性の向上」を両立させられるか検討するのだ。
3つ目の柱は、変革のリーダーシップに関する研究、つまり変化に適応しようとする組織と個人に関する研究である。この研究によれば、リーダーが次の4つの原則に従うと、多くの人たちに行動を起こさせやすくなる。
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