「仕事ができるようになりたい」と願うビジネスパーソンは、さまざまなツールを駆使して知識やノウハウを獲得している。ただ、知識やノウハウを身につけたからといって、仕事ができる人になれるとは限らない。それらを活用しながら仕事を前に動かしていく「実行力」のほうがもっと重要だ。
あなたが知識やノウハウを基に素晴らしい事業企画を立てたとしよう。いくら企画が素晴らしくても、社内の人々を味方につけ、組織を動かす力がなければ、その企画は失敗に終わるだろう。上司の承認を得られなかったり、周囲のサポートを受けられなかったりするからだ。
「仕事ができる人」という評価を勝ち取れるのは、人間心理と組織力学に対する深い洞察力と、その洞察に基づいた的確な行動力を兼ね備え、人と組織を巧みに動かす「実行力」を身につけた人だ。本書ではこのヒューマン・スキルを「Deep Skill(ディープ・スキル)」と呼び、21の項目に分けて言語化している。
「人と組織を巧みに動かす」とは、ずる賢く立ち回ることではない。ディープ・スキルを発揮するためには、「礼儀正しくする」「謙虚である」「嘘をつかない」といった「当たり前のこと」を忠実に守り続ける姿勢が最優先である。目先の利益に捉われることなく自分を律し、周囲の人からの「信頼資産」をコツコツと貯めることが、長期的にはあなたのためになる。
ただし、単なる「いい人」になればいいわけではない。そこにしたたかな戦略性が加わることで、はじめて人や組織を動かせるようになる。時には周囲の人の心理を巧みに利用することも必要だ。
組織の中で何かを成し遂げるためには、後ろ盾となってくれる上役の存在がきわめて重要である。特に新しいことをやろうとする際には、アイデアを磨くのみならず、後ろ盾となってくれる上役との信頼関係構築が不可欠だ。
ところが、後ろ盾になってくれていたはずの上役に「はしごを外される」こともあるだろう。上役の指示通りに動いていたのに、社内での雲行きが怪しくなってくるやいなや、こちらに責任を押しつけてくる……といったケースである。そんなときは相手を責めるのではなく、人間心理や組織力学に原因があると考えて、現実を受け入れよう。
上役に逃げられないよう、前もって対策を練っておくのも賢いやり方だ。経営会議などでプレゼンする際には「私からプレゼンをする前に、本件でご指導いただいているA取締役に、一言頂戴したく思います」などと発言する。プロジェクトが社内報などで取り上げられることになったら、自分ではなく上役に出てもらう――。こうした手を駆使すれば、上役は「起案者の代表」という立場になり、何が起こっても逃げられなくなる。
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