緑と、赤と、青。目の前の光景が、ピントのずれた写真のようにぼやけて、止まって見えた。
少し経って、止まっていた景色が動き出す。緑のピッチの上で、赤いユニフォームを着たベルギー代表選手たちが抱き合って喜んでいる。青いユニフォームのチームメイトたちはじっとしたままだ。観客席からは地鳴りのような大歓声が聞こえている。
まだ走れるし、コンディションも問題ない。でも、電光掲示板によると、それはもう叶わないようだ。2018年7月2日、僕の3度目のワールドカップが終わりを告げた。
2014年のブラジル大会で、僕はこれまでのサッカー人生で一番の挫折を味わった。立ち直るのに1年以上かかったほどだ。
だから2018年のロシアワールドカップでは、何がなんでも結果を出す必要があった。ワールドカップで味わった挫折はワールドカップでしか取り戻せない。この大会を最後に代表を引退すると決めてもいた。
それなのに負けてしまった。試合後、ロッカールームへ向かいながら考えていたのは、「もう一度、この舞台に戻ってきてやる」ということだ。盟友・本田圭佑や、ワールドカップ3大会でキャプテンを務めたハセさん(長谷部誠)、同じサイドバックの(酒井)高徳は、試合後のインタビューで代表引退を発表したらしい。そんな中、僕の心はまったく逆の方向へと舵を切っていた。
南アフリカ、ブラジル、ロシア。本書執筆時点で、僕は3度のワールドカップを経験した。ワールドカップは、毎回、確実に、僕の人生を変えた。
1度目の南アフリカ大会は23歳のとき。右も左もわからなかったが、がむしゃらなプレーが評価され、海外移籍につながった。
2度目のブラジル大会は大きな自信を持って臨んだが、あえなく挫折。大会後、「サッカーが楽しくない」という感情を初めて経験することとなった。
そして3度目のロシア大会。ベルギー代表に逆転負けし、自分の中に火がついた。
ワールドカップは独特だ。ピッチに立つたび、自分自身から「お前はこの試練を乗り越えられるのか?」と問いかけられる。だが、その重圧を乗り越えれば確実に成長できる。成功は約束されていないけど、成長は約束されている――それがワールドカップなのだ。
トップオブトップスたちとの勝負である以上、いくら考え、悩み、汗をかき、心身をいじめ抜いても、うまくいくとは限らない。むしろ報われない可能性のほうが高いくらいだ。でも、考え、悩み、汗をかき、心身をいじめ抜いた経験は、必ず糧になる。
だから、ワールドカップを目指すことはやめられない。今、僕は4度目のワールドカップに向けて走り続けている。
3,400冊以上の要約が楽しめる