読書道楽

未読
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読書道楽
出版社
出版日
2022年11月13日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

スタジオジブリのプロデューサーとして知られる鈴木敏夫さんの隠れ家「れんが屋」には、4部屋に分かれた書庫・書斎がある。鈴木さん自らがインテリアを手がけ、蔵書は8800冊。本好きには夢のような空間だ。本書は、この書庫の雰囲気を『鈴木敏夫とジブリ展』で再現しようと行った、鈴木さんと本をめぐるインタビューをもとに構成されている。同展覧会で配布された文庫『読書道楽』をもとに加筆修正し、単行本化された本書は、「鈴木敏夫」をかたちづくった厖大な読書の軌跡を追う。

鈴木さんが徳間書店を退職し、スタジオジブリに移籍したのは1989年。以来、高畑勲監督・宮崎駿監督と数々の名作を手がけ、ジブリ作品はいまや世界中に愛されている。そんなジブリ作品のルーツは、戦後の少年漫画、もっとさかのぼれば敗戦のショックである。歴史は文化に影響を与え、個人の読書体験が世界を駆け巡るコンテンツを生む。鈴木さんの読書遍歴にもまた、社会や人とのつながりの奥行きが感じられる。読書好きの方だけでなく、文化史に興味がある方、そしてもちろんジブリファンも、好奇心をくすぐられるに違いない。

本書を読み終わると、もっと本が読みたくなってくる。何気なく手に取った一冊が、人生を変える一冊になるかもしれない。これだから、読書はやめられない。

ライター画像
池田友美

著者

鈴木敏夫(すずき としお)
一九四八年、愛知県名古屋市生まれ。スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。徳間書店で『アニメージュ』の編集に携わるかたわら、一九八五年にスタジオジブリの設立に参加、一九八九年からスタジオジブリ専従。以後ほぼすべての劇場作品をプロデュースする。著書に、『ジブリの文学』(岩波書店)、『南の国のカンヤダ』(小学館)、『仕事道楽 新版――スタジオジブリの現場』(岩波新書)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    敗戦のショックから、戦後の日本には「大人は信用できない」という気分があった。ここから、少年を主人公にした、日本独自の少年漫画が生まれる。
  • 要点
    2
    少年時代に物語を読みふけった鈴木敏夫さんは、社会人になるとノンフィクションの面白さに目覚める。書き手としての夢はあきらめざるをえなかったが、ジブリに移籍するときに、宮崎駿の編集者になると決意する。
  • 要点
    3
    40代になってからの読書の中心は評論だ。宮崎駿を理解するのにも、評論が思いがけず役立った。
  • 要点
    4
    読書という道楽は、自分の根幹だ。活字がないと生きていけない。

要約

4畳半で繰り返し読んだ、少年漫画

「大人は信用できない」はどこから来たのか

そもそも最初に読んだ本はなんだったかと考えると、漫画だったのではないかと鈴木さんは振り返る。漫画好きの親父が初めて買ってくれたのは月刊少年漫画誌『少年画報』。なかでも夢中になったのは『赤胴鈴之助』だ。錚々たる剣士が集う、江戸の千葉周作道場で、少年剣士・赤胴鈴之助の活躍が描かれる。

『赤胴鈴之助』が大人気だったのは、子どもたちの間にあった「大人は信用できない」という気分にあったように思う。戦時中は戦意高揚の道具として使われた小説・漫画・映画は、戦後の一時期禁止された。独立とともにもう一度解禁されたとき生まれたのが『赤胴鈴之助』だ。この時期子どものための漫画が生まれたのは、戦後しばらくは戦争孤児がたくさんいて、貧困でつらい目に遭っていたからかもしれない。それは日本が戦争に負けたせいで、その戦争をやっていた大人は信用できないという気分が時代の根底にあった。だから、戦後の漫画は子どもが主人公になり、悪い大人と戦うものが多い。鈴木さんの知るかぎり、こういう物語は日本に特有の現象だ。

戦後のヒーローを生み出したのは、食うために漫画を描いた、16、17歳ぐらいでデビューした漫画家たちだ。医学部卒の手塚治虫という例外はいるが、日本の漫画界の根っこには、戦後の貧しさや学校に行けなかった人たちがいる。主人公が少年だったのは、作家自身が一家を支えるために必死で闘っていた現実とリンクしている。

日本独自の文化が、世界へ羽ばたくまで
oorka/gettyimages

戦争孤児よりも下の世代である鈴木さんの時代にも、まだ貧しさは残っていた。漫画や本が潤沢にあった自分は恵まれていたのだろうと振り返る。4畳半の部屋に漫画をたくさん置いて、繰り返し読んでいた。

義務教育を終えると同時に漫画家になる人たちがたくさんいて、そういう漫画を浴びるように読んだ最初の世代が、鈴木さんたち団塊の世代だ。この世代は、漫画を「卒業」せずに、大人になっても漫画を読み続けた第一世代でもある。

戦争が終わり、アメリカに占領され、大人が自信を失っていた時期に、子どもが社会の主役として躍り出て、日本独自の子ども文化が誕生する。それは、文化的にも商売的にも画期的だったのではないかというのが鈴木さんの見立てだ。

「自分が主役にならなきゃいけない」という意識は漫画によって植え付けられた。立派な大人ではなく、立派な少年になってこの国をなんとかしなければならないと思ったのだ。宮さん(宮崎駿)が、少年が旅立ち、苦難を経験し、成長するという物語をつくりたがったのも、あの時代の漫画を読んでいたからだ。

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要約公開日 2023.01.29
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