2022年5月4日、夏のスキー場に長蛇の列ができていた。イベントがあるわけでもない、もちろん雪もない日である。著者が白馬に移住し、白馬岩岳マウンテンリゾートを運営する会社の経営に携わるようになって3年目のことだった。
その前の冬は2年連続の少雪で、2010年以降は12万人程度だった来場者数が7万人台まで激減していた。今後も少雪のシーズンがやってくるかもしれないし、海外からのスキーヤーがずっと来てくれるとも限らない。国内のスキー人口も激減している。「冬の数カ月で稼ぐだけだと、今後やっていくことはできない」という危機感を背景に、絶景の山頂につくった展望施設や、北アルプスの大絶景に飛び出す大型ブランコ、表参道や京都嵐山で大人気のCHAVATYが出店した展望エリアなど、さまざまな取り組みを仕掛けてきた。
結果として、2016年には2万5000人程度だった「グリーンシーズン(4~11月)」のお客さんの数が、2021年には見事13万4000人を突破した。これはシーズン中の来場者数を大きく超える数である。
これらの取り組みに通底する考え方は「隠れた資産を見つけ出し、磨き上げること」だ。
戦略を考えるうえでの大前提は、「そもそも自社のビジネスは何なのか」「自社の活動を通じて顧客にどんな価値を提供するのか」を定義することだ。白馬岩岳の場合、メンバーと話し合って出した結論は「私たちはスキー場ビジネスをやっているわけではない」だった。
著者らがいる土俵は「レジャー産業」である。もう少し具体的に言うと、「半日程度以上の時間を国内外のお客さんに使ってもらい、目に見える製品や商品をお渡しすることなく、満足感や爽快感を覚えてリフレッシュした状態で、もとの生活に戻ってもらうビジネス」だ。そう考えれば、競合は県内のスキー場だけではない。ニセコや蔵王、北海道や東北、北アメリカやヨーロッパのスキー場はもちろん、遊園地やキャンプ場、ゴルフ場、映画館、動物園や水族館といった施設も競合だ。ゲームやスマホ、インターネットですら、お客さんの時間と財布を取り合う競合に含まれる。
レジャー産業として、白馬岩岳マウンテンリゾートにできることは何か。それを考えるうえでのキーワードが、「離れた資産を見つけ出し、徹底的に活用すること」だ。
「隠れた資産」とは、「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」のこと。ゼロから何かを生み出すよりコストも時間も節約できるため、「隠れた資産」をうまく使えば、成功確率は格段に高まる。
「隠れた資産」には大きく3つのカテゴリがある。
1つ目は「モノ」だ。土地や建物、機械、その土地固有の景色などのうち、その価値をフルにお客さんに提供できていない、工夫次第で輝きを増すものだ。たとえば長野県阿智村は、「星がもっとも輝いて見える場所」に認定されていながら星空を売りにしていなかったが、あるときから星空ツアーを開催し、大人気を博している。
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