真空中を伝わる光の速度はとてつもなく速いが、瞬間的ではない。光速は有限で不変である。アインシュタインは「特殊相対性理論」で、一般空間において因果律の伝わる速さは光速が上限であると明示した。「因果律」とは、すべての事象は必ずある原因によって起こるという原理のことだ。つまり、ある原因から生じる作用は光速で伝わるかもしれないが、光速よりも早く結果が生じることはないということだ。
質量を持つものは光速より速く移動できない。このことは、数々の実験によって裏打ちされている。では、なぜ光速という特定の値が絶対的な制限となるのだろうか。特殊相対性理論は、真空中の光速が不変かつ有限であることを前提とするが、その理由が明らかにされているわけではない。実際、後にアインシュタインによって発表された一般相対性理論では、物体やエネルギーによって時空が湾曲すると、「抜け穴」のような構造が生じ、遠く離れた2点間において超光速の移動が可能になる余地が示唆されている。
量子力学は、人間の常識的感覚に反する面を見せることがある。量子力学的な観点では、素粒子同士は力や波動などの媒質を介することなく、遠隔地において相関を示す。このような、「量子もつれ」は、光速以下の速さでしか影響が伝播しない因果律よりも早く影響を示すことができる。すると、自然界には光速を最高速とする因果律に則った伝達経路と、人間の観察と同時に相関を示す量子相関という経路の、2種類の伝達ルートがあることとなる。
アインシュタインは、量子もつれを「幽霊のような遠隔作用」として認めず、量子力学を局所性(ある物体の物理的特性はその近傍の条件によって決まるという性質)と因果性に反する不完全な理論だとみなした。多くの科学者が、相対性理論も量子力学も司るような統一理論を作ろうと長年知恵を出し合ってきた。
「シンクロニシティ(意味のある偶然の一致)」は1930年にスイスの心理学者カール・ユングが唱えた言葉だ。物理学者のヴォルフガング・パウリは、ユングと共にシンクロニシティの研究にのめり込み、日常における偶然の一致と量子もつれの類似性を見出すことで、量子もつれの非因果性を説明しようと試みた。だが、検証方法は直観に頼るものであり、疑似科学的原理の構築に留まるものだった。
量子力学は直観に反する面があるが、厳密性に欠けるわけではなく、むしろ自然界を極めて正確に記述する論理である。医療機関で使われるMRIや、日本で開発中の超電導リニアモーターカーなどは量子力学の応用例だ。近年では、量子もつれの現象を利用した、量子テレポーテーションや量子暗号でも、革新的で有用な成果が上げられている。宇宙の森羅万象を解明するためには、因果性と非因果性を調和させなければならないのだろう。
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