リーマンショック以降、物価上昇率であるインフレ率が「低すぎる」ことが各国で問題視されてきた。とりわけ日本は物価がなかなか上がらない、あるいは物価が下がる「デフレ」に見舞われていた。そのようななか、米国、英国、欧州の専門家によるインフレ率予測値が上昇しはじめたのが、2021年春ごろだ。インフレはパンデミックの最中に始まっていた。
2020年当初、パンデミックが世界経済にどう影響するか、ほとんどの専門家は見通せなかった。著者も同様であったが、次のように考察を深めていく。
パンデミックはある種の「天災」といえる。天災は企業がモノやサービスを生み出す「供給」にダメージを与える。しかし、日本人に身近な天災である地震が経済に与えた影響を考えると、地震が供給のための機械や設備にダメージを与えるのに対し、パンデミックは労働者を働けなくする。つまり労働力に与えるダメージのほうが大きいのだ。
次に、過去のパンデミック事例として、1918年から20年にかけて流行したスペイン風邪に注目すると、当時の世界経済は激しいインフレに見舞われたことがわかった。犠牲者が働き盛りの世代に集中し、供給が停滞して、感染収束に伴い需要が増えたためだ。そこで、「コロナも供給ショックだとすれば物価は上がるはずだ」と、著者は見通しを立てた。しかし、2020年5月時点では死者数はスペイン風邪ほどには及ばず、健康被害が経済被害を生んでいるとは言い難い状況だった。
実際のところ、パンデミックによる何が経済被害を生み出したのか。世界各国の100万人あたりの死者数と、2020年のGDP損失率を並べたグラフからは、健康被害の大きさも、行動制限への政府の介入の強さも、経済被害に直結していないことがわかる。
そこで著者が考えた仮説は、「情報」が経済被害を生み出したのではないか、というものだ。いわば「情報主犯説」である。
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