世界インフレの謎

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出版日
2022年10月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

ガソリンや光熱費、食料品が軒並み値上げされて、でも給料は上がらない。いま、みなさんはそんな実感をもって暮らしているのではないだろうか。これはどういう状況なの? この先どうなるのか? そうした疑問に真摯に向き合うのが、本書である。

日本のメディアでは、ウクライナ侵攻によって供給不足になった燃料や食糧の価格が高騰し、それが経済全体に及んで世界的なインフレを引き起こしている、とよく説明されている。しかし、著者をはじめとする世界の専門家たちは「戦争はインフレの主原因ではない」と見ている。では真の原因は何なのか。

著者はまず、世界的なインフレの原因を探るところから始まり、日本のインフレの現状やその対処法について考察する。著者が独自に行った調査や、重要な統計データが豊富に盛り込まれており、全体として緻密で説得力に富んでいる。それでいて、少々難易度が高そうなところも、用語の説明とともに平易に語られているのが、本書のすばらしいところだ。ときにユーモアもまじえた著者の語り口はとても読みやすい。経済を専門的に学んだことがなくても、生活の中の経済感覚から、内容はじゅうぶんに理解できるだろう。

今まさに起こっていることについて書くことには難しさもあると思うが、著者は自身の考えの道筋と予測を語ることを恐れない。それにより、読者にとってまさに今知りたいことがびっしりとつまった一冊になっている。必読だ。

ライター画像
小日向悦子

著者

渡辺努(わたなべ つとむ)
1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行勤務、一橋大学経済研究所教授等を経て、現在、東京大学大学院経済学研究科教授。株式会社ナウキャスト創業者・技術顧問。ハーバード大学Ph.D. 専攻は、マクロ経済学、国際金融、企業金融。著書に、『市場の予想と経済政策の有効性』(東洋経済新報社)、『慢性デフレ 真因の解明』(編著、日本経済新聞出版社)、『検証 中小企業金融』(共編著、日本経済新聞出版社)、『新しい物価理論 物価水準の財政理論と金融政策の役割』(共著、岩波書店)、『入門オルタナティブデータ 経済の今を読み解く』(共編著、日本評論社)、『金融機能と規制の経済学』(共著、東洋経済新報社)、『物価とは何か』(講談社選書メチエ)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    インフレはパンデミックの最中に始まっていた。パンデミックによる「情報」と「恐怖心」が人々の行動を変容させ、経済被害をもたらした。
  • 要点
    2
    消費者、労働者、企業の3つの行動変容がパンデミックの「後遺症」として残ったため、商品の価格や賃金も今後も変化していくだろう。インフレはその過程で起きている出来事である。
  • 要点
    3
    現在の日本は急性インフレと慢性デフレという2つの病をかかえている。価格に変化が生じ始めたいま、賃上げの有無によって、慢性デフレから脱却するか、もしくはスタグフレーションになるかという岐路にある。

要約

ウイルスはいかにして世界経済と経済学者を翻弄したか

真犯人はパンデミック?
Ada daSilva/gettyimages

リーマンショック以降、物価上昇率であるインフレ率が「低すぎる」ことが各国で問題視されてきた。とりわけ日本は物価がなかなか上がらない、あるいは物価が下がる「デフレ」に見舞われていた。そのようななか、米国、英国、欧州の専門家によるインフレ率予測値が上昇しはじめたのが、2021年春ごろだ。インフレはパンデミックの最中に始まっていた。

2020年当初、パンデミックが世界経済にどう影響するか、ほとんどの専門家は見通せなかった。著者も同様であったが、次のように考察を深めていく。

パンデミックはある種の「天災」といえる。天災は企業がモノやサービスを生み出す「供給」にダメージを与える。しかし、日本人に身近な天災である地震が経済に与えた影響を考えると、地震が供給のための機械や設備にダメージを与えるのに対し、パンデミックは労働者を働けなくする。つまり労働力に与えるダメージのほうが大きいのだ。

次に、過去のパンデミック事例として、1918年から20年にかけて流行したスペイン風邪に注目すると、当時の世界経済は激しいインフレに見舞われたことがわかった。犠牲者が働き盛りの世代に集中し、供給が停滞して、感染収束に伴い需要が増えたためだ。そこで、「コロナも供給ショックだとすれば物価は上がるはずだ」と、著者は見通しを立てた。しかし、2020年5月時点では死者数はスペイン風邪ほどには及ばず、健康被害が経済被害を生んでいるとは言い難い状況だった。

世界に伝播した情報と恐怖

実際のところ、パンデミックによる何が経済被害を生み出したのか。世界各国の100万人あたりの死者数と、2020年のGDP損失率を並べたグラフからは、健康被害の大きさも、行動制限への政府の介入の強さも、経済被害に直結していないことがわかる。

そこで著者が考えた仮説は、「情報」が経済被害を生み出したのではないか、というものだ。いわば「情報主犯説」である。

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要約公開日 2023.02.18
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