スマホ時代の哲学

失われた孤独をめぐる冒険
未読
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スマホ時代の哲学
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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出版日
2022年11月18日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

モニターでSlackを眺めながらZoom会議に出席し、発言していないときはブラウザの別タブで作業を進めつつ、スマホでさっとLINEを返す――。今日の要約者の過ごし方だ。呼吸をするように同時並行でタスクをこなす生活を送っているのは、要約者だけではないと信じたい。

このような生活が当たり前になった要因の一つに、スマホの登場があるだろう。10数年ほど前まではスマホなしの世界が当たり前だったのに、私たちはもはやスマホなしで生活することはできなくなっている。そして、常につながっているはずなのに、寂しさから逃れられなくなっている。

本書では、哲学を軸にスマホ時代の課題を紐解いていく。注意してほしいのは、「孤立」「孤独」「寂しさ」といったキーワードを、辞書的な意味で解釈しないことだ。先入観を取り除き、哲学者の考える「孤立」「孤独」「寂しさ」に思いを馳せることが、本書と向き合ううえで大切である。

著者は、不明瞭で複雑ですぐには消化できないコトやモノの重要性を指摘している。スマホ時代を生き、明瞭・簡潔な刺激を求める私たちにとって、すぐに消化できないコトやモノを受け入れることは一種の苦行とも言えるかもしれない。だが、そのときに感じるモヤモヤには意味がある。

本書を読み進めるときも同様だ。最初の数ページで「自分には難しいかもしれない」「それで、著者の結論は?」などと感じても、ぜひそのまま読み進めてみてほしい。そのモヤモヤを起点として「失われた孤独をめぐる冒険」が始まるだろう。

著者

谷川嘉浩(たにがわ よしひろ)
1990年生まれ。京都市在住の哲学者。
京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。現在、京都市立芸術大学美術学部デザイン科特任講師。

哲学者ではあるが、活動は哲学に限らない。個人的な資質や哲学的なスキルを横展開し、新たな知識や技能を身につけることで、メディア論や社会学といった他分野の研究やデザインの実技教育に携わるだけでなく、ビジネスとの協働も度々行ってきた。

単著に『鶴見俊輔の言葉と倫理:想像力、大衆文化、プラグマティズム』(人文書院)、『信仰と想像力の哲学:ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房)。共著に『読書会の教室』(晶文社)、『ゆるレポ』(人文書院)、『フューチャー・デザインと哲学』(勁草書房)、『メディア・コンテンツ・スタディーズ』(ナカニシヤ出版)、Neon Genesis Evangelion and Philosophy (Open Universe)、Whole Person Education in East Asian Universities (Routledge)などがあるほか、マーティン・ハマーズリー『質的社会調査のジレンマ:ハーバート・ブルーマーとシカゴ社会学の伝統』(勁草書房)の翻訳も行っている。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代人は自己逃避に勤しんでいる。自らを「激務」で取り巻き、自分以外のことには平気で疑いを向けるにもかかわらず、自分自身を疑うことはない。まるで「ゾンビ映画ですぐ死ぬやつ」のような生き方だ。
  • 要点
    2
    スマホによって常時接続が可能になった結果、私たちは、自分自身と向き合うために欠かせない「孤立」と「孤独」、そしてネガティヴ・ケイパビリティを失った。
  • 要点
    3
    私たちは何かを作ったり育てたりする趣味を通して、自分の外側に立ち現れた謎と繰り返し対峙し、自己対話を行う。

要約

現代人の「不安」との付き合い方

不安を逃れるための「激務」

ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェは、著書『ツァラトゥストラ』でこのように語っている。

「君たちにとっても、生きることは激務であり、不安だから、君たちは生きることにうんざりしているんじゃないか?[……]君たちはみんな激務が好きだ。速いことや新しいことや未知のことが好きだ。――君たちは自分に耐えることが下手だ。なんとかして、君たちは自分を忘れて、自分自身から逃げようとしている」

自らを「激務」で取り囲もうとする現代人にとって、この指摘は他人事ではないはずだ。私たち現代人は、生きることの不安から逃げるために、予定を詰め込んだり、誰かにメッセージを送ったりせずにはいられない。

自分自身を決して疑わない人たち
S-S-S/gettyimages

私たちの「自己逃避っぷり」を考えるうえでは、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットの著書『大衆の反逆』も参考になる。オルテガは、現代社会を分析するにあたって都市を取り上げ、都市の特徴は人の多さ、つまり多様な人たちがみな同じ場所に殺到していることだとした。

新型コロナウイルスの感染拡大や働き方の多様化、地方移住ブームなどによって、事情は少し変わったかもしれない。だが「多様な人たちがみな同じ場所に殺到していること」を「話題に居合わせること」へのこだわりだと理解すれば、オルテガの議論は変わらず有効だ。話題のニュースやコンテンツに人が群がっているさまは、まさに都市に人が群がっているのと同じである。

では、人は都市に集まって何をしているのか。オルテガによると、人は他人の話も聞かずに、とにかく自分の考えを自身満々でしゃべりまくっている。

ソーシャルメディアやカフェ、繁華街などにおける人々の姿を思い出すと、心当たりのある人は少なくないだろう。誰もが自己発信やセルフイメージばかりを気にしており、自分の考えを疑わず、自信満々にリプライを飛ばしている。自分以外のことには平気で疑いを向けるのに、自分自身を疑うことはない。そこに私たちの自己逃避っぷりが現れている。

「ゾンビ映画ですぐ死ぬやつみたいな生き方」をしていないか

現代人の生き方は、ゾンビ映画のモブキャラのそれに似ている。「俺は絶対死なねぇ」と自信満々の人、「お前らみたいなやつが集団を危機にさらすんだ」と他人を非難してばかりの人、「キャンプはこっちのほうが安全に決まっている」と言って寝ちゃう人……これらのセリフを聞いて「あかんフラグや」などと笑う人がいるかもしれないが、これこそ私たちの姿なのである。

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要約公開日 2023.02.26
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