内省とは、「自分自身の思考や感情へ積極的に注意を向けること」である。内省のおかげで、私たちは想像や反省、問題解決や未来の創造ができる。この能力こそが、人間とほかの種を分つ進化的前進の一つであることは間違いない。
しかし近年、苦痛を感じているときの内省は有害無益であるという研究結果が多数報告されている。それは、仕事のパフォーマンスや判断能力を低下させ、人間関係に悪影響を及ぼし、そして精神疾患や体調悪化のリスクも高めるのだという。油断ならない何かを生み出している思考、その正体がチャッター(頭の中のしゃべり声)だ。
チャッターを構成するのは「循環するネガティブな思考と感情」である。これらは内省を呪いに変えてしまう。仕事での失敗や恋人との諍いがあったとき、私たちはそれについて考え、頭の中は否定的な感情でいっぱいになる。そして再びそのことを考え、これを無限に繰り返す。内省によって「内なる批判者」に出くわしてしまう。
私たちは、目覚めている時間の3分の1から2分の1もの間、「今」を生きていないことが研究からわかっている。私たちの意識はいとも簡単に「今、ここ」から離脱し、過去の出来事や想像上のシナリオに向かう。これが脳の「初期状態(デフォルト)」であり、脳は常に初期状態に立ち返ってしまうのだ。
私たちは頭の中で自分自身に話しかけ、その声に耳を傾けている。人類は文明の夜明け以来、チャッターと格闘してきた。初期のキリスト教神秘主義者は黙想を邪魔する頭の中の声を「悪魔の声」だと考え、中国の仏教徒は乱れた思考状態を「妄念」と名付けた。しかし、それと同時に、同じ文化で内なる声は「知恵」とも位置付けられてきた。多くの精神的伝統は内なる声を恐れるとともに、その価値を強調してきたのである。
「内なる声」と聞くと、その病的側面に注目しがちだが、内なる声は誰にでもある。この言葉の流れは私たちの内面世界から切り離せないため、音声障害に陥ったときですら途絶えることはない。内なる声、すなわちチャッターは、人間の精神の基本的特徴なのである。
3,400冊以上の要約が楽しめる